第5回:未来をつくるのは、“見えない力”に気づいた人たち ― ミトコンドリア、腸内細菌、分子栄養学が拓く再生の時代 ―
かつて「神が人をつくった」と信じられていた時代、
人間の身体は神秘のブラックボックスでした。
しかし今、私たちは知っています。
私たちの命は、数えきれない“見えない力”によって支えられているということを。
■ 命のエネルギー工場「ミトコンドリア」
ミトコンドリア――それは、私たちの細胞の中にあるエネルギー発電所。
1つの細胞に数百〜数千個存在し、日々ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを生み出しています。
でもそれだけではありません。
ミトコンドリアは、炎症の制御、免疫の活性化、細胞死の選択といった、まさに生命の“要”を担っているのです。
老化も、がんも、慢性疾患も、
その根っこにあるのはミトコンドリア機能の低下である――
そう考える医療者が、今や世界中に広がっています。
■ 腸は「第二の脳」ではなく「もう一つの免疫臓器」
腸内には100兆個以上の腸内細菌が棲んでいます。
その総重量は1.5〜2kg、まるで体内にいる“もうひとつの生物”です。
腸内細菌は、栄養の吸収だけでなく、
・免疫の調節
・神経伝達物質(セロトニンなど)の合成
・炎症の抑制や活性
といった、多面的な機能を担っています。
そしてこの腸内環境の良し悪しが、
ミトコンドリアの元気さにもつながっていることが、近年の研究でわかってきました。
■ 分子栄養学がつなぐ「食」と「細胞」
分子レベルで栄養を考える“分子栄養学”は、
もはや栄養学という枠を超え、細胞の再生科学へと進化しています。
たとえば、
・NMNが細胞の若返りスイッチ(サーチュイン遺伝子)をONにする
・5-ALAがミトコンドリア内のエネルギー産生を高める
・水素が活性酸素(ROS)を選択的に除去し、細胞を守る
これらは、もはや「サプリメント」ではなく、
細胞の運命を左右する“情報分子”として捉えるべき存在です。
■ 小さな力が、大きな未来を動かす
これまで5回にわたって、
パンデミック、経済、戦争、ストレス、そして見えない身体の力についてお話ししてきました。
私がこの連載で一貫して伝えたかったのは、こういうことです。
私たちの未来は、「外で起きる出来事」によって決まるのではない。
それにどう反応し、どう整えるかという“内なる力”が鍵になる。
その“内なる力”こそ、ミトコンドリアであり、腸内細菌であり、
そしてそれを支える食事、睡眠、運動、呼吸といった、
日々のささやかな習慣なのです。
■ おわりに
未来は、予測するものではなく、
つくるものです。
そしてそれは、巨大なシステムによってではなく、
小さな見えない力に気づいた、一人ひとりの手によって始まります。
私はこれからも、医学と文明、そして生命の根源を見つめながら、
“再生する医療”を信じ、皆さんと共に歩んでいきたいと思います。