Director's blog
院長日記

「NMNの脳への作用」

NMNは脳のミトコンドリアを再活性化する

私たちの脳は、全身の臓器の中でももっともエネルギーを必要とする器官です。

この莫大なエネルギー需要を支えているのが、神経細胞内のミトコンドリアです。

ところが、加齢とともにミトコンドリアの機能が低下すると、エネルギー代謝の効率が落ち、

脳細胞は酸化ストレスや代謝障害にさらされます。その結果として、記憶力の低下、思考の鈍化、神経変性が進行するのです。

こうした“脳の老化”に対して、いま世界中で注目されているのが NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)という分子です。

 

NAD⁺の前駆体としてのNMN

NMNは、体内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)という補酵素に変換されます。

このNAD⁺は、ミトコンドリアがATP(エネルギー通貨)を作るために不可欠な分子であり、

さらに長寿遺伝子とされる

サーチュイン(SIRT)ファミリーの活性にも関与しています。

特に脳内では、SIRT1やSIRT3が、神経細胞のストレス応答・炎症抑制・DNA修復に関与しており、

NAD⁺が豊富に存在することで、こうした神経保護メカニズムがフルに働くと考えられています。

 

海馬とシナプスを守るNMNの力

マウスを用いた実験では、NMNを投与すると海馬(記憶の中枢)におけるニューロンの可塑性が改善し、

学習能力や記憶力が有意に向上することが報告されています。

これは、NMNによるNAD⁺の増加と、それに伴う神経成長因子(BDNF)やCREB経路の活性化が関与しているとされます。

また、シナプスの形成や維持にはエネルギーと精密な代謝制御が必要ですが、

NMNはミトコンドリア機能を直接サポートすることで、脳内ネットワークの健全性を維持する役割も果たしています。

 

神経変性疾患モデルにおける効果

アルツハイマー病やパーキンソン病のマウスモデルにおいても、NMNの投与により

  • 神経細胞の脱落が減少
  • タウタンパクやアミロイドβの蓄積が抑制
  • 行動記憶テストでの成績が改善

といった効果が確認されています。

つまりNMNは、神経のエネルギー代謝を底上げすることで、構造的かつ機能的な保護効果をもたらすのです。

 

NMNは「脳の長寿サポーター」

NMNは単なるエネルギー補助成分ではなく、脳細胞の“老化の流れ”を逆行させる可能性を秘めた分子です。

日常生活における認知力の維持はもちろんのこと、

将来的には認知症や脳疾患の予防的サポートとして、NMNの活用が広がる可能性があります。

次章では、もう一つの重要な分子「5-ALA」が、ミトコンドリアの“火力”をどのように高め、 脳のパフォーマンスにどんな影響を及ぼすのかを解説していきます。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。