免疫のブレーキとミトコンドリア :ノーベル賞が示した「老化と炎症の交差点」
制御性T細胞(Treg)とは?
2025年のノーベル生理学・医学賞は、制御性T細胞(Treg)の発見と機能解明に授与されました。
この細胞は、免疫の暴走を防ぐ“ブレーキ役”として働きます。
私たちの免疫システムは、体を守る「アクセル(攻撃)」と「ブレーキ(抑制)」の絶妙なバランスで成り立っています。
もしブレーキが壊れれば――自己免疫疾患が、逆に効きすぎれば――がん免疫が抑えられてしまいます。
この繊細な制御の中核を担うのがTregであり、その活動を裏で支えるのが、実はミトコンドリアなのです。
ミトコンドリアが支える「免疫の静寂」
T細胞には多様なサブタイプがありますが、エネルギーの使い方がそれぞれ異なります。
攻撃的なエフェクターT細胞は解糖系(糖の燃焼)を使い、短期決戦型。
一方、Tregは酸化的リン酸化(OXPHOS)というミトコンドリア中心の代謝を行い、長期にわたり穏やかに免疫を制御します。
この「静かな代謝」が、慢性炎症を防ぎ、自己寛容(self-tolerance)を維持するための鍵です。
まさに、Tregは“ミトコンドリアの落ち着いた呼吸”の上に立つ免疫の司令塔と言えるでしょう。
老化と炎症の交差点
年齢を重ねると、Tregとミトコンドリアの両方が衰えます。
その結果、全身で炎症がくすぶる「炎症性老化(inflammaging)」が進行します。
この慢性炎症が、動脈硬化・糖尿病・がん・認知症など、さまざまな疾患の土壌となります。
つまり―― 老化とは単に時間の経過ではなく、
ミトコンドリアと免疫のブレーキの同時劣化によって起こる“代謝性の現象”なのです。
ミトコンドリアを守ること=免疫を整えること
私たちが提唱する「アンチエイジング3本の矢®」――
NMN(若返りスイッチ)
5-ALA(ミトコンドリア点火剤)
水素(酸化ストレスのリセット)――
は、まさにミトコンドリアを元気にし、細胞の呼吸と免疫の調和を取り戻すための戦略です。
Tregのエネルギー基盤であるミトコンドリアが整えば、
免疫のブレーキもスムーズに作動し、炎症性老化の連鎖を止めることができます。
未来の医療へ
免疫を鍛えるだけでなく、“整える”時代へ。
ミトコンドリア医療は、免疫制御の新しい扉を開きつつあります。
ノーベル賞の発見は、その科学的基盤を再確認させてくれました。
「命は、酸化と還元の狭間で輝く。」 — Dr. Shiggekky
参考
・Sakaguchi S. et al. Nature Reviews Immunology (2020)
・Angelin A. et al. Immunity (2017): “FOXP3 reprograms T cell metabolism towards mitochondrial respiration.”
・Weinberg SE. et al. Science (2019): “Immunometabolism and the control of T cell fate.”