Director's blog
院長日記

敗者の脳とミトコンドリア

私たちの社会では、競争や比較のなかで生きています。
仕事での評価、人間関係の上下、あるいはスポーツの勝ち負け。
「勝者」と「敗者」という言葉は、単なる比喩ではなく、私たちの脳の深いところにまで刻み込まれています。

そんな「社会的ヒエラルキー」を生み出す仕組みを、脳科学が初めて明らかにしました。
沖縄科学技術大学院大学(OIST)が発表した最新研究によると、「敗北経験」によって脳の中で特定の神経細胞が活動し、行動そのものが変わってしまうことが分かってきたのです。

 

敗北を記憶する脳のメカニズム

OISTの研究チームは、マウス同士を細いチューブの両端から対峙させ、どちらが相手を押し戻すかという「優位性テスト」を繰り返しました。
勝ち続けるマウスはますます自信をつけ、負け続けるマウスはすぐに引き下がるようになる——まるで人間の社会を見ているようです。

この現象は「敗者効果(loser effect)」と呼ばれます。
不思議なことに、敗北を経験したマウスは、次の試合でも自ら劣位を選ぶようになるのです。

研究チームが脳を解析したところ、この“敗者効果”には「コリン作動性介在ニューロン」という細胞群が関与していることが分かりました。
これらの細胞は、脳の「背内側線条体」という部位にあり、行動の柔軟性や意思決定を支える神経のハブのような存在です。
この細胞を選択的に除去すると、マウスは過去の敗北にとらわれず、再び挑戦的な行動をとるようになりました。

つまり、「負けた経験」を固定化する神経のスイッチが存在するのです。

 

ミトコンドリアが支える「挑戦する脳」

では、このスイッチを動かしている“エネルギー源”は何でしょうか?
その答えの一つが、ミトコンドリアです。

ミトコンドリアは、細胞の中でATPというエネルギーを生み出す「発電所」。
このATPが不足すると、脳の神経細胞はメッセージをうまく伝えられなくなり、意欲や決断力が落ちていきます。

「コリン作動性介在ニューロン」は、アセチルコリンという神経伝達物質を放出します。
実はこのアセチルコリンは、ミトコンドリアが作るアセチルCoAを材料にして合成されているのです。
つまり、ミトコンドリアが弱るとアセチルコリンも減り、意思決定や集中力、柔軟な行動が難しくなります。

これが、敗北経験のあとに「もういいや」「どうせ無理だ」と感じてしまう、生理的な理由の一端です。

 

ストレスがミトコンドリアを疲弊させる

心理的ストレスを受けると、私たちの体は「HPA軸」と呼ばれるストレス反応経路を活性化させます。
ストレスホルモンのコルチゾールが分泌されると、一時的に体を守るために代謝が変化しますが、これが続くとミトコンドリアのDNA転写や酵素の働きが低下します。

結果として——

  • ATP(エネルギー通貨)が減る
  • 活性酸素(ROS)が増える
  • 神経の可塑性(柔軟性)が落ちる
  • 意欲を司る回路が鈍る

まさに、「敗者効果」で観察された状態です。
ストレスによってミトコンドリアが傷つくと、私たちはエネルギー的にも“敗者モード”になってしまうのです。

 

「アンチエイジング3本の矢®」が支える脳の回復力

ここで重要なのは、ミトコンドリアは再生できるということ。
そしてその回復を助けるのが、私たちが提唱しているアンチエイジング3本の矢®(NMN+5-ALA+水素吸入)です。

成分

作用

敗者脳への効果

NMN

NAD⁺を補給し、エネルギー代謝とSIRT1遺伝子を活性化

神経可塑性・やる気の回復、BDNF上昇

5-ALA

ヘム合成を促進し、電子伝達系を改善

アセチルCoAの供給を支え、ACh代謝を安定化

水素吸入

活性酸素(ROS)を中和し、炎症を抑制

ストレスで疲弊した神経を守る

これらの働きによって、脳内のエネルギー代謝が回復し、“立ち直る力(レジリエンス)”が蘇る可能性があります。
いわば、「敗者の脳」を再起動するミトコンドリア・リセット療法です。

 

「負けても、もう一度立ち上がる脳」へ

人間社会では、誰もが一度は「敗者」になる瞬間があります。
しかし、脳科学が教えてくれるのは、敗北の記憶は固定ではないということです。
それは、ミトコンドリアが新しいエネルギーを取り戻し、神経回路が再び柔軟に動き出すとき、
「行動のパターン」も変わりうるのです。

つまり、

「立ち直れない人」ではなく、「立ち直るエネルギーが足りない脳」。

老化やストレス、慢性疲労もまた、ミトコンドリアレベルでの“エネルギーの敗北”といえるでしょう。
だからこそ、エネルギー医学としてのアンチエイジングは、単なる若返りではなく、
「もう一度、挑戦できる脳を取り戻す科学」なのです。

 

Dr. Shiggekkyからのメッセージ

「人は、年齢や過去の失敗で老いるのではない。
 ミトコンドリアの火が消えたとき、心が老いるのです。」

社会の中で何かに敗れたとき——それは終わりではなく、
脳の再生を始める合図かもしれません。

私たちの細胞の奥で、今日も小さなミトコンドリアが光を放っています。
その光を再び燃やす力が、あなた自身の中に眠っています。

 

関連トピック

  • 「ストレスとミトコンドリア」:心が疲れるとき、細胞では何が起きているか
  • 「NMN・5-ALA・水素吸入療法とは?」:エネルギー医学の新しい可能性
  • 「ミトコンドリアとレジリエンス」:心と脳を強くする科学的アプローチ

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。