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院長日記

脊椎関節炎 ― 体の“つなぎ目”に起こる慢性炎症

武本 重毅

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私たちの体は、たくさんの「つなぎ目(関節)」で支えられています。
歩く、立つ、振り向く――そんな何気ない動作を可能にしているのが、骨と骨をつなぐ関節です。
しかし、この関節に炎症が長く続くと、痛みやこわばり、さらには関節の変形を起こすことがあります。

「脊椎関節炎(せきついかんせつえん)」は、その中でも背骨(脊椎)や骨盤の関節(仙腸関節)に炎症が起こる病気の総称です。
関節リウマチと似ていますが、原因や炎症の起こり方が異なります。

 

脊椎関節炎とは?

脊椎関節炎(Spondyloarthritis, SpA)は、主に次のような特徴を持つグループの病気です。

  • 背骨や骨盤まわりの関節が痛む(仙腸関節炎)
  • 腱や靱帯が骨に付く場所(付着部)に炎症が起きる
  • 若い世代(10代後半〜40代前半)に発症しやすい
  • リウマチ因子(RF)や抗CCP抗体は陰性
  • 家族に同じような病気がある場合も多い(遺伝的傾向)

このグループには、次の4つの代表的な病気があります。

 

  1. 強直性脊椎炎(きょうちょくせいせきついえん)

主な症状

  • 朝起きた時の腰のこわばりや痛み
  • 夜明け前に腰が痛む(夜間腰痛)
  • 体を反らせにくくなる、前かがみ姿勢になる

この病気では、背骨と骨盤の関節が炎症を起こし、次第に骨がくっついて硬くなることがあります。
進行すると、背中全体が一本の棒のように動かなくなり、「竹のような脊椎(bamboo spine)」と呼ばれます。

原因と背景

はっきりした原因は分かっていませんが、HLA-B27という遺伝子型を持つ人に多く見られます。
また、腸内環境との関連も指摘されており、免疫のバランスが崩れることで慢性炎症が続くと考えられています。

治療の基本

まずは痛みと炎症を抑える薬(NSAIDs)で症状をコントロールします。
それでも改善しない場合、生物学的製剤(免疫の働きを部分的に抑える注射薬)が有効です。
姿勢を保つためのリハビリやストレッチも欠かせません。

 

  1. 乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)

乾癬(かんせん)という皮膚の病気に関節炎が加わるタイプです。
乾癬では、皮膚の細胞が過剰に増えて赤い斑点やかさぶた状の発疹が現れます。

主な症状

  • 手や足の指が腫れて“ソーセージ指”のようになる
  • 爪の変形(点状陥凹や厚くなる)
  • 腰や背中の痛み、腱の付着部(かかとなど)の痛み

乾癬のある方の約3人に1人が、関節炎を併発するといわれています。
皮膚よりも関節炎が先に現れることもあり、見逃されやすい病気です。

原因と治療

体の免疫反応が過剰になり、IL-17やIL-23といった炎症物質が活発になることが原因の一つと考えられています。
軽症では一般的な消炎鎮痛薬を、進行例では生物学的製剤(IL-17阻害薬やTNF阻害薬など)が使われます。
皮膚の治療と関節の治療をバランスよく行うことが大切です。

 

  1. 反応性関節炎(はんのうせいかんせつえん)

風邪や食あたりなど感染症のあとに関節炎が起こるタイプです。
関節そのものに菌がいるわけではありませんが、感染をきっかけに免疫反応が過剰に働き、関節が腫れたり痛んだりします。

よくあるきっかけ

  • 性感染症(クラミジア)
  • 食中毒(サルモネラ、カンピロバクターなど)
  • 尿道炎や腸炎の数週間後に関節痛

主な症状

  • 膝や足首の痛み・腫れ
  • 発熱、結膜炎、尿道炎を伴うことも

多くは一時的で数か月以内に改善しますが、HLA-B27陽性の人では慢性化することもあります。

治療

急性期には抗菌薬消炎薬を使い、炎症が長引く場合には免疫を調整する薬を用います。
十分な休養と感染の予防も大切です。

 

  1. 炎症性腸疾患関連関節炎

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患(IBD)に関節炎が合併することがあります。
腸の炎症と関節の炎症が“連動”して起こることが特徴です。

症状

  • 膝・足首などの関節が腫れる(腸の炎症が悪化した時に同時に出やすい)
  • 背骨の痛みやこわばり(ASに似たタイプ)

原因

腸の炎症によって腸内細菌やその成分が血液に漏れ出し、関節で免疫反応を引き起こすと考えられています。
腸と関節は密接につながっているのです。

治療

腸の炎症を抑えることが最優先。
5-ASA製剤や生物学的製剤(TNF阻害薬など)が使われます。
関節の症状が強い場合には、関節リウマチ治療薬を併用することもあります。

 

共通する特徴 ― 腸と免疫のつながり

脊椎関節炎の多くに共通するのは、「腸と免疫の異常なやり取り」です。
腸内細菌のバランスが崩れると、免疫が過剰に働き、体のあちこちで炎症が起こることがあります。

最近では、「腸―関節―皮膚」軸という考え方も注目されています。
つまり、腸の健康を守ることが関節の健康にもつながるのです。

 

治療の進歩と生活の工夫

近年、生物学的製剤分子標的薬の登場により、これらの病気のコントロールが大きく進歩しました。
早期に診断し、適切な治療を始めれば、骨の変形や関節の強直を防ぐことができます。

生活面のポイント

  • 長時間同じ姿勢を避け、こまめに体を動かす
  • 背筋を伸ばすストレッチを習慣にする
  • 禁煙(喫煙は炎症を悪化させる)
  • 腸内環境を整える食生活を意識する

痛みがあると動くのがつらくなりますが、「動かすことで守る」ことが大切です。
医師や理学療法士と相談しながら、無理のない範囲で続けましょう。

 

まとめ ― 早期発見が未来を変える

脊椎関節炎は、早期発見・早期治療が何より大切です。
「朝の腰のこわばりが長く続く」「夜中に腰が痛くて目が覚める」――そんなサインを感じたら、自己判断せず専門医に相談してください。

かつては治らないと考えられていた関節炎も、今ではコントロールできる時代です。
適切な治療と生活改善で、痛みのない日常を取り戻すことができます。

 

監修:聚楽内科クリニック 院長 武本 重毅(内科・アンチエイジング医療)

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。