Director's blog
院長日記

NAD⁺って何?なぜ今注目されているの?

武本 重毅

カテゴリー: 

(ミトコンドリア医療 × アンチエイジング)

1️⃣ そもそも「NAD⁺」とは何か?

NAD⁺(ナド)は、
私たちの全身 37兆個の細胞が動くために必要な“エネルギーのお金”を作るための決済係です。

  • 体のエネルギー工場=ミトコンドリア
  • そこでATP(エネルギー通貨)をつくるとき、NAD⁺が不可欠

つまり NAD⁺が足りない=細胞の発電量が落ちる=疲れやすく、老けやすくなる ということ。

2️⃣ NAD⁺は年齢とともに減っていく

最新の総説でも明記されていますが、
NAD⁺は加齢とともに大きく減少します。

  • 40代を過ぎると、20代の半分ほどに低下
  • ミトコンドリアの働きが落ち、炎症が増え、代謝が鈍る
  • “老化のスイッチ”が入りやすくなる

特に 糖尿病・肥満・慢性炎症・肝臓の負担 によっても NAD⁺は減少しやすいことが報告されています。

3️⃣ NAD⁺が減ると何が起きるの?

論文では、NAD⁺低下が次のような“老化の加速”につながるとされています:

(1)慢性的な炎症が続きやすくなる

NAD⁺は炎症を抑える酵素(SIRT、PARPなど)の材料。
減ることで炎症が止まりにくくなる=老化炎症(inflammaging)

(2)ミトコンドリアの機能低下

NAD⁺が不足すると、
ATPの生産量が低下 → 疲労感、脳の回転低下、筋力の落ち込み。

(3)代謝・認知・睡眠にも影響

神経の働き、エネルギー代謝、体内時計の調整にNAD⁺が関わるため、
認知機能の低下、睡眠の質の低下とも関連。

4️⃣ なぜ「NMN・NR・NAM」などが話題になるの?

論文では “NAD⁺前駆体”の違い がとても重要と強調されています。

主な前駆体

  • NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)
  • NR(ニコチンアミド・リボシド)
  • NAM(ナイアシンアミド)

これらは 身体の中でNAD⁺に変換される“材料” です。

✔ NMN:吸収・代謝のルートが明確

ミトコンドリア機能改善や加齢関連疾患で研究が多い。

✔ NR:経口で安定、NAD⁺上昇効果は確実

筋肉・肝臓・脳での作用が研究されている。

✔ NAM:古くから使われるビタミンB3

炎症抑制作用はあるが、高用量の長期使用は注意点もある。

総説では、
「どれがベストかは疾患や個体差により異なる」
としつつ、高齢者でのNAD⁺低下には前駆体の補充が有望と明記。

5️⃣ NAD⁺は増やせるの?

増やす方法は大きく4つあります。

(1)食事

ナッツ、魚、肉、緑黄色野菜にNAD⁺前駆体が含まれます。
ただし 加齢による減少を食事だけでカバーするのは難しい と論文でも言及。

(2)運動

有酸素+筋トレを行うことで、NAD⁺生成酵素(NAMPT)が増える。

(3)良質な睡眠

睡眠と体内時計遺伝子(時計遺伝子)にNAD⁺は密接に関係。

(4)前駆体(NMN・NR)の補充

臨床試験で「血中NAD⁺の上昇」が示されています。

6️⃣ よくある疑問

Q:サプリは飲めば飲むほど効果が出ますか?

No。適量が大切。
過剰にNAM(ナイアシンアミド)を摂ると逆効果になる場合もあります。
NMN・NRは安全性が比較的高いとされています。

Q:がん患者は飲んでよいですか?

→ 論文でも議論があります。
がん細胞もNAD⁺を利用して増えるため、「適応・量」の慎重な判断が必要。
医師の指導のもとで調整すべき領域です。

7️⃣ まとめ:NAD⁺は「ミトコンドリアの通貨」

  • NAD⁺は エネルギー・代謝・炎症・睡眠・認知 のすべてと関わる
  • 加齢とともに減少
  • 減少は「老化の加速」に直結
  • 運動・睡眠・栄養・前駆体補充で改善可能
  • NMN・NRの活用は アンチエイジング3本の矢® と科学的に整合性がある

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。