祝宴の灯が消え、
アトピック城に再び夜が訪れたころ——
誰にも気づかれぬように、城壁の外れに赤い霧が立ちこめました。

霧の中心に立つ影。
それは、炎症の魔女（インフラマ）。

彼女のマントは紅く爛れ、
指先からは灼けるような光が滴り落ちていました。

「ふふ……
ミトコンドリアマンめ。
一度は呪いを断ったつもりでしょう？」

魔女が杖を振ると、
城下町の人々の皮膚が、じわじわと赤く染まり始めます。

かゆみ。
熱。
眠れぬ夜。

——赤い皮膚の夜が始まったのです。

 

その異変を、姫は最初に感じ取りました。

「……あの感覚。
私が塔にいたころと同じ……」

その瞬間、城の屋根を越えて
青白い光が夜空を切り裂きました。

ミトコンドリアマン、再臨。

「炎症は敵ではない。
だが、暴走すれば呪いになる。」

彼の胸のエンブレムが輝き、
青いエネルギー波が城全体を包み込みます。

 

魔女は笑いました。

「エネルギー？
それだけで、この赤い嵐が止められると？」

「違う。」
ミトコンドリアマンは静かに答えます。

「止めるのではない。
鎮め、整える。」

青と赤がぶつかり合い、
夜空には紫の閃光が走りました。

すると——
赤い霧はゆっくりと薄れ、
人々の皮膚から熱が引いていきました。

 

魔女は後ずさりし、闇に溶けながら呟きます。

「覚えておくことね……
酸化、糖化、炎症、時間。
四つが揃えば、私はまた戻る……」

静寂。

夜明けとともに、
城下町には穏やかな風が吹きました。

姫は自分の腕を見つめ、微笑みます。
赤みは消え、肌は静かに呼吸していました。

ミトコンドリアマンは空を仰ぎ、こう呟きます。

「再生は一夜では終わらない。
だが、夜を越えれば、必ず朝は来る。」

そして彼は、再び細胞宇宙へと姿を消しました。

 

つづく——

 

物語の裏にある医学的メタファー

• 炎症の魔女＝慢性炎症・免疫暴走
• 赤い霧＝サイトカイン嵐・皮膚バリア破綻
• 青いエネルギー＝ミトコンドリア機能回復・ATP・還元力
• 「鎮め、整える」＝抗炎症 × 代謝修復 × 恒常性回復