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院長日記

第3章 「酸化伯爵と夜明けを奪う影」

武本 重毅

赤い皮膚の夜が去ったあとも、
アトピック城には、どこか朝が来ない違和感が残っていました。

夜は終わる。
だが——夜明けが来ない。

太陽は昇るはずなのに、
城下町はいつまでも灰色の薄明に包まれていたのです。

人々は気づきませんでした。
空気の中に、目に見えぬ黒い粉塵が漂っていることを。

 

城の北の塔。
崩れかけた時計台の上に、
一人の男が立っていました。

黒銀のマント。
砂時計を模した杖。
顔は影に隠れ、ただ片眼だけが鈍く光る。

その名は——
酸化伯爵(オキシド・ロード)

「炎症の魔女は、まだ甘い……
私は、時間そのものを錆びさせる者

伯爵が杖を傾けると、
黒い粉塵が風に乗り、街へ降り注ぎました。

それは、
夜明けを奪う影

 

人々の体に、静かな変化が起こります。

・朝、起きても疲れが取れない
・肌の輝きが失われる
・小さな傷が治らない

それは痛みでも、熱でもない。
ただ、“若さが戻らない感覚”

姫は窓辺で、空を見上げていました。

「……太陽は、あるのに
どうして、光が届かないの?」

 

そのとき。

城壁の上に、蒼白な閃光が走ります。

ミトコンドリアマン、降臨。

「酸化伯爵……
お前は炎症よりも厄介だ」

伯爵は低く笑いました。

「気づいたか。
炎症は騒ぐ。
だが酸化は、静かに奪う

 

伯爵が杖を振るうと、
空間そのものが錆びついたように歪みます。

光は鈍り、
時間は重くなり、
細胞の中の“灯”が消えていく。

ミトコンドリアマンは、胸のエンブレムに手を当てました。

「夜明けは、光ではない。
還元がある場所に、朝は生まれる

彼の背後で、
無数の小さな青い光——
ミトコンドリアたちが目を覚まします。

 

青い奔流と、黒い影が激突。

伯爵は一瞬、よろめきました。

「……ほう。
だが覚えておけ」

砂時計の砂が、逆向きに流れ始めます。

糖化伯爵
時間の王が目覚めたとき——
夜明けは、完全に消える」

そう言い残し、
酸化伯爵は影とともに霧散しました。

 

その瞬間。

雲が裂け、
本物の朝日が、城を照らします。

姫の肌に、
やわらかな光が宿りました。

ミトコンドリアマンは、静かに空を見上げます。

「夜明けは、奪われるものではない。
内側で、作り出すものだ。

 

つづく——

 

医学的メタファー解説(裏設定)

  • 酸化伯爵=活性酸素(ROS)による慢性酸化ストレス
  • 夜明けを奪う影=ミトコンドリア機能低下・還元力枯渇
  • 灰色の朝=疲労・老化・修復遅延
  • 青い光=ATP・NAD⁺・電子伝達の回復

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。