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クリニックからのお知らせ

SNSで拡散している誤情報に関して

聚楽内科クリニック

SNS投稿者の
「水素を吸いすぎると、ミトコンドリア内で電子が滞留・漏出し、ATPが作れなくなる」
という主張は、現在のミトコンドリア生理学・水素医学の知見からは支持されていません。

少なくとも、

  • 数%の水素
  • 約20%の酸素
  • 臨床現場で用いられている吸入条件

において、
そのような現象がヒトで起きるというエビデンスは存在しません。

論点を分解して検証します

「水素が大量に入る」という前提は正しいか?

正しくありません。

  • 分子水素(H₂)は
    • 電子供与体ではない
    • 電子を“注入”しない
  • しかも
    体内分圧は吸入中でも一過性に上がるだけで、すぐ呼気から排出

📌 ミトコンドリア内に水素が“溜まり続ける”ことはありません。

 

「水素が電子を渋滞させる」という仮説について

ミトコンドリア電子伝達系(ETC)の基本

  • 電子は
    NADH / FADH₂ → 複合体 I–IV → 酸素
  • 電子漏れ(ROS産生)が増えるのは主に:

状況

原因

酸素不足

最終電子受容体がいない

NAD⁺不足

電子を流せない

複合体障害

電子が滞留

膜電位過剰

バックプレッシャー

 

水素はこのどれに該当するか?

👉 どれにも該当しません。

  • 水素は
    • 電子伝達系の基質ではない
    • 複合体に結合しない
    • 電子の流れを止めない

📌 電子の「渋滞」を起こす理論的根拠がない

 

逆に、水素と電子漏れの関係は?

実際の研究では:

  • 水素は
    Complex I・III 由来の電子漏れ(mtROS)を減らす方向に働く
  • 特に
    ヒドロキシルラジカル(•OH)や ONOO⁻ を選択的に消去

👉 電子漏れの“結果”を減らす
👉 電子伝達を壊すのではない

 

「水素が入りすぎるとATPが作れない」という点

これも ❌ 支持されません

理由:

  1. 水素はATP合成に直接関与しない
  2. 酸素濃度が20%前後で維持されている
  3. 臨床・動物・細胞実験でATP低下は報告されていない

むしろ:

多くの研究で
ATP維持・改善
ミトコンドリア膜電位(MMP)維持
が示されています(Dr. ShiggekkyのCareNetスライド16–18枚目の内容と一致)。

 

投稿者の図の「どこが問題か」

SNS図解には典型的な誤りがあります。

誤り①

「水素=電子を増やす存在」と暗黙に扱っている
水素は電子供与体ではない

誤り②

「水素イオン(H⁺)」と「分子水素(H₂)」の混同
H₂はプロトン勾配を直接増やさない

誤り③

細胞内の“静止画”で議論している
→ 実際のミトコンドリアは
高速で流れる動的システム

では「水素が害になるケース」は理論上あり得るか?

極端な仮定なら YES、しかし現実的ではありません。

想定されるのは:

  • 酸素をほぼ置換するほどの高濃度水素
  • 密閉空間での酸素欠乏
  • 爆発限界を超える濃度(医療では使用不可)

👉 Dr. Shiggekkyの施設の条件(数%H₂+約20%O₂)では該当しません。

まとめ(医療者向けの整理)

主張

科学的評価

水素で電子が滞留する

❌ 根拠なし

水素で電子漏れが増える

❌ 逆

ATPが作れなくなる

❌ 報告なし

ミトコンドリア障害

❌ むしろ保護的

 

患者さん・スタッフ向けに使える一文

水素はミトコンドリアの電子を増やしたり、
流れを止める物質ではありません。

適切な酸素と一緒に吸入する条件では、
エネルギー産生を邪魔するという科学的根拠はなく、
むしろ酸化ストレスを減らす方向に働くと考えられています。

 

 

最後に

SNSの
「◯◯を吸いすぎると危険」系の話は、

  • 不安を煽る
  • 断片的な知識をつなぎ合わせた仮説
  • ヒト臨床の検証がない

ことがほとんどです。

Dr. Shiggekkyが提示する
酸素濃度・流量・臨床データ・エピクロック結果は、
この主張より はるかに強い実証レベルにあります。