CD30シグナルとCD153の発見
なぜCD30は単なるマーカーではなくなったのか
CD30は1982年、
Hodgkinリンパ腫細胞を認識するKi-1抗体の標的分子として発見されました。
その後しばらくの間、
CD30は
「リンパ腫細胞の目印(マーカー)」
として利用されていました。
しかし研究が進むにつれ、
CD30は単なる目印ではなく、
細胞同士が情報をやり取りするための
シグナル分子
であることが分かってきました。
受容体には相手がいる
細胞表面に存在する受容体は、
単独では働きません。
鍵穴に対応する鍵が必要です。
1990年代前半、
研究者たちはCD30の相手分子を発見しました。
それが
CD30 ligand(CD30L)
です。
後に
CD153(TNFSF8)
と呼ばれるようになりました。
CD153は
- 活性化T細胞
- B細胞
- 単球
- 樹状細胞
- 好中球
などに発現し、
CD30との結合によって免疫細胞同士の情報伝達を担います。
CD30シグナルは単純ではなかった
当初、
研究者たちは
CD30刺激は細胞増殖を促すのか、
それとも細胞死を誘導するのか、
明確な答えを得られませんでした。
実際には、
細胞の種類や状態によって
全く異なる結果が生じることが分かりました。
CD30刺激は
ある細胞では
- 増殖
- 生存
を促進します。
一方で別の細胞では
- 分化
- 増殖停止
- アポトーシス
を誘導します。
つまりCD30は、
単純なオン・オフのスイッチではなく、
細胞の状態を読み取りながら働く
コンテキスト依存型シグナルだったのです。
胸腺で働くCD30
さらに興味深いことに、
CD30とCD153は胸腺にも存在します。
胸腺はT細胞が教育される場所です。
胸腺では、
自己に反応する危険なT細胞が除去されます。
CD30/CD153シグナルは、
この過程に関与している可能性が示されました。
つまりCD30システムは、
発がんの段階だけでなく、
免疫細胞が生まれる段階から働いている可能性があります。
CD153は単なるリガンドではなかった
さらに研究を進めると、
驚くべきことが分かりました。
CD153は単なる「鍵」ではなかったのです。
通常、
リガンドは受容体を刺激するだけです。
しかしCD153は、
CD30に結合されると
自分自身の細胞内にもシグナルを送ります。
これを
reverse signaling(逆方向シグナル)
と呼びます。
B細胞では、
CD153刺激によって
抗体産生やクラススイッチが制御されることが報告されました。
つまり
CD30
→
CD153
だけではなく、
CD153
→
CD30
も存在するのです。
双方向通信システム
この発見によって、
CD30/CD153は
単なる受容体とリガンドではなく、
互いに情報を送り合う
双方向通信システム
として理解されるようになりました。
CD30陽性細胞
⇄
CD153陽性細胞
という相互作用によって、
免疫応答そのものが調節されているのです。
慢性炎症との関係
その後、
CD30/CD153系は
リンパ腫だけでなく、
慢性炎症性疾患でも注目されるようになりました。
例えば
- アトピー性皮膚炎
- 乾癬
- 炎症性腸疾患
では、
CD30やCD153の発現上昇が報告されています。
さらに肥満細胞では、
CD30刺激によって
IL-8
MIP-1α
MIP-1β
などの炎症性サイトカインが産生されることも示されました。
CD30システムは、
慢性炎症を維持するネットワークの一部だったのです。
老化研究との接点
そして近年、
CD153研究は新たな展開を迎えます。
老化に伴って増加する
Senescence-Associated T cells(SA-T細胞)
が、
CD153を強く発現することが報告されました。
さらにCD153とCD30の相互作用は、
免疫老化や自己免疫の形成に深く関与していることが示されました。
つまりCD30/CD153系は、
リンパ腫研究から始まり、
現在では
慢性炎症
免疫老化
自己免疫
へと研究領域を広げているのです。
ATL研究との接点
私たちは長年、
ATL患者における可溶性CD30(sCD30)を研究してきました。
当初は腫瘍マーカーとして捉えていました。
しかし現在では、
CD30は単なる腫瘍マーカーではなく、
慢性炎症、
老化免疫、
細胞外小胞(EV)、
そして病勢進展をつなぐネットワークの一部として見え始めています。
おわりに
CD30発見から40年以上が経過しました。
その間、
CD30は
リンパ腫マーカー
↓
シグナル分子
↓
CD153との双方向通信システム
↓
慢性炎症制御機構
↓
免疫老化ネットワーク
へと理解が進化してきました。
現在私たちは、
CD30を単なるマーカーとしてではなく、
生体の状態を反映するシステムとして捉え始めています。
そしてこの視点が、
ATLや老化研究の新しい理解につながるのかもしれません。

