Director's blog
院長日記

長い間信じてきたことが覆されるとき

武本 重毅

現代社会に生きる私たちが持つ知識は、ほぼ完璧なレベルに達していると考える人も多いことだろう。

ところが、私たちは知っているようで知らないことが多い。

正しいと思い込んでいることが少なくない。

 

わたしが関わってきた医学領域においても、ノーベル賞を授与されるほど革新的なことだった。

わたしが研究していた、白血病・リンパ腫の原因となるウイルス(HTLV-I)は、エイズの原因ウイルスであるHIV-1と同様、逆転写酵素をもつレトロウイルスに属す。この逆転写酵素が発見されるまで、全ての生物タンパクはDNAからRNAを経て産生されると信じられてきた。ところが、レトロウイルス遺伝子はRNAであり、そのRNAから逆転写酵素を用いてDNAをつくり、そこからRNA、そしてタンパクという通常の流れにのることがわかった。

胃がんなどの原因となるヘリコバクター・ピロリ菌発見の場合は、胃酸があらゆるタンパク質を変性・分解するので、それまで胃の中に細菌感染はあり得ないと考えられていた。ところが、菌が産生する尿素により菌の周りに胃酸が作用できなくなっていることが判明した。

 

実生活に眼を向けてみよう。

われわれが当たり前のように目にする照明や信号機、自動車や飛行機、スマートフォンやワイヤレス、GPSや宇宙ロケットなど様々な物が、半世紀前、一世紀前、一世紀半前にはなかった。それが、今後は車が空を飛び、宇宙旅行できるような世界になるだろう。

 

物だけではない、生物の遺伝子操作が進み、農作物や家畜はより発育がよく育てやすく、しかも人々の好みに応じた形へと変化させられるだろう。

 

人間自身も、これまで不治の病といわれた白血病や難病を克服しつつある。

そして、これまで誰もが、それは不可避で不可逆的な現象だと信じて疑わなかった老化と死さえも、私たちはこれらを操作し克服できるかもしれない。

わたしが目指しているのは健康寿命150歳である。

わたしが生きている間に、どれだけの新しい発見、そして文明の進化を目の当たりにすることになるのだろうか。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。