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院長日記

胃の異常と貧血

武本 重毅

昨日はじめて私たちのクリニックを受診した女性は

10年前に大学病院で胃を全摘出する手術を受けたということでした。

胃は消化に重要な臓器ですが

実は造血、特に赤血球をつくるために重要なはたらきをしています。

そこで今回は「胃の異常と貧血」についてご紹介します。

胃粘膜から分泌される内因子は腸管からのビタミンB12の吸収に不可欠であり、内因子欠乏があるとビタミンB12の吸収障害に基づく巨赤芽球性貧血がおこります。これらのうち代表的なのは,高度萎縮性胃炎による胃粘膜からの内因子の分泌低下によるものです。これを悪性貧血といいます。

悪性貧血は胃壁細胞や内因子に対する抗体によって生じることが多いのですが、胃壁細胞のH+/K+-ATPase(プロトンポンプ)と内因子が自己免疫反応を引き起こす抗原です。
詳細な機序は不明ですが、H+/K+-ATPase に対する自己免疫反応が起こり、壁細胞が破壊されます。

壁細胞が破壊されて、酸分泌粘膜の機能が低下します。胃酸分泌の低下により、胃幽門前庭部に存在するG細胞からガストリン分泌が増加します。鉄吸収には胃酸が重要ですが、胃酸分泌が低下することにより、鉄吸収が障害され、鉄欠乏性貧血になります。高ガストリン血症により消化管クロム親和性細胞様(ECL)細胞が刺激され、その過形成から神経内分泌腫瘍が発生するようです。

内因子分泌低下および抗内因子抗体によりビタミンB12の吸収が阻害され、ビタミンB12欠乏症状があらわれます。ビタミンB12欠乏により、巨赤芽球性貧血などの血液学的および神経学的な異常を呈するようになります。
また,慢性炎症により胃癌の危険度は約3倍となるそうです。

また、内因子を分泌する壁細胞は胃体部に存在するので、胃体部を切除するとビタミンB12吸収率は著しく低下します。体内貯蔵ビタミンB12はおよそ5年ほどで欠乏するため、胃全摘後は5年後くらいから吸収不全による巨赤芽球性貧血が生じます。胃全摘後にビタミンB12を投与しないと、約2~10年(平均的には5、6年後)で巨赤芽球性貧血を発症します。胃部分切除では鉄欠乏による貧血が最も多くみとめられます。

慢性胃炎はA型胃炎とB型胃炎の二つに分けられていますが、A型胃炎は自己免疫性胃炎に、B型胃炎は、Helicobacter pylori(H. pylori)感染による慢性胃炎にそれぞれ相当します。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。