造血幹細胞におけるミトコンドリアのはたらき
私たちが現在取り組んでいます
アンチエイジング3本の矢は
NMM(ニコチンアミド モノヌクレオチド)
水素ガス
エクソソーム
を用いる治療法ですが
これらはミトコンドリア機能回復や活性酸素種除去により
細胞レベルで若さを保ちます。
これが造血幹細胞移植やiPS細胞治療に役に立つかもしれません。
横浜市立大学大学院医学研究科 幹細胞免疫制御内科学 中島秀明教授と村上紘一研究員の研究グループは、同 免疫学 田村智彦教授、同 神経解剖学 船越健悟教授、慶應義塾大学医学部 岡本真一郎名誉教授、国立国際医療研究センター研究所 田久保圭誉プロジェクト長、東京大学医科学研究所 岩間厚志教授などと共同で
全ての血液細胞(白血球、赤血球、血小板)のもとになる造血幹細胞の維持に
ミトコンドリア内の
ブドウ糖(グルコース)を材料にしたたんぱく質の修飾(糖鎖修飾)が重要であることを見出し
その酵素(O結合型b-N-アセチルグルコサミン転移酵素;OGT)を明らかにしました。
造血幹細胞が維持されることは血液を安定的に作り出すのに極めて重要です。
本研究は、『Cell Reports』に掲載されました。(日本時間2021年1月6日午前1時付オンライン)
OGTはマイトファジーとよばれる仕組みを制御することで
ミトコンドリアの品質管理を介して造血幹細胞を維持するのに必須の役割を果たしており
血液細胞の産生を支えています。
造血幹細胞は、全ての血液細胞のもとになる細胞で、骨の中にある骨髄に存在しています。造血幹細胞は細胞分裂によって毎日数千億個の白血球・赤血球・血小板を作り続けており、抗がん剤治療で血液細胞が減少した際や骨髄移植後などでは、さらに多くの血液細胞を産生するように働きます。このように造血幹細胞は、血液の状態を一定に保つのに極めて重要な役割を担っています。
体内の造血幹細胞の数には限りがあり、分裂によってすべての造血幹細胞が成熟した血液細胞に変化すると、造血幹細胞は消失してそれ以上血液が作れなくなります。このため造血幹細胞は、分裂に際して自らと全く同じ細胞を複製し(自己複製)、それが分裂しないよう静止状態に留めておくことで、自らの数を維持しています。
これはiPS細胞でも同様で、造血幹細胞の維持には
ブドウ糖をもとにした代謝システムが重要な役割を果たしていることが知られています。
ブドウ糖の代謝経路としては解糖系からクエン酸回路につながる経路が有名ですが
それ以外に解糖系から分岐するヘキソサミン生合成経路(HBP)と呼ばれる経路が存在します。
これは糖鎖であるN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)の元になるUDP-GlcNAcを生成する経路で、これをもとに酵素OGTが、さまざまなタンパク質にGlcNAc基を付加しています(GlcNAc修飾)。細胞に取り込まれたブドウ糖の2~3%がHBPで代謝されGlcNAc修飾に利用されますが、この経路の造血幹細胞における役割はこれまで不明でした。
OGT欠損マウスで白血球・赤血球・血小板が急激に減少
研究グループは、GlcNAc修飾の造血幹細胞における役割を明らかにするため、まず造血系におけるOGTの発現量とGlcNAc修飾を受けているタンパク質量を調べました。その結果、成熟した細胞に比べて造血幹細胞を含む未熟な造血細胞ではOGTの発現が高く、GlcNAc修飾を受けているタンパク質量も多いことが判明しました。このことから、OGTによるGlcNAc修飾は造血幹細胞で重要な役割を担っている可能性が示唆されました。
続いてOGTをマウスの血液細胞全体で欠失させたところ、白血球・赤血球・血小板が急激に減少し、さらに骨髄では造血幹細胞や未熟な前駆細胞が広く失われることが明らかになりました。このことは、OGTが造血幹細胞を維持するのに必須であることを示しています。
また、OGTを欠失した造血幹細胞で何が起きているかを調べた結果、細胞を障害する活性酸素種が増加し、静止状態が失われ、アポトーシスによる細胞死が亢進していました。さらに細胞のエネルギー産生に重要なミトコンドリアが異常な形態を示しており、機能的に不良なミトコンドリアが蓄積していることも明らかとなりました。
造血幹細胞の維持にOGTを介したマイトファジー制御が必須
造血幹細胞では、ミトコンドリアの質や量を適切に調節することが恒常性の維持に重要であるとされています。ミトコンドリアの質を保つのに重要なメカニズムとして、不良なミトコンドリアを除去するマイトファジーという仕組みが知られています。
研究グループは、前述のOGT欠損による不良ミトコンドリアの蓄積は、このマイトファジーの機能低下によるものではないかと考え、OGT欠損造血幹細胞におけるマイトファジーの状態を調べました。すると、マイトファジーの鍵となる遺伝子Pink1発現が著しく減少しており、これが原因でマイトファジーが機能しなくなっていることが明らかとなりました。以上のことから、造血幹細胞の維持にはOGTを介したマイトファジー制御が必須であることが示されました。
なおOGTは、その活性が細胞内外のブドウ糖濃度によって敏感に変化するため、細胞の栄養センサーとも呼ばれており、OGTによるGlcNAc修飾は、発がんと密接に関わっていることも報告されています。