高齢化社会の中で考えること2023
1.増える高齢者の働き手
今年の敬老の日を前に総務省が17日に発表した統計によれば、2022年の65歳以上の就業者数は21年より3万人増えて912万人でした。1968年以降で過去最多を更新しており、少子高齢化で生産年齢人口が減り、高齢者の働き手が人手不足を補っています。
就業者数に占める働く高齢者の割合は21年比0.1ポイント上昇の13.6%で、過去最高になりました。就業者の7人に1人を高齢者が占めます。65歳以上の就業率は25.2%でした。年齢別では65〜69歳は50.8%、70〜74歳は33.5%と上昇を続けています。
(日経電子版)
2.増える老衰死
老衰死は超高齢化社会を迎えた日本で10年前から急増しています。2014年には、75000人を超え、統計を取り始めて以来過去最高となりました。この背景には、最後まで徹底した治療を行うよりも自然な死を受け入れる、という考え方の広がりがあるとみられています。
2016年に死因5位であった老衰死が、2017年には肺炎を追い抜き4位となり、2018年以降、老衰死が3位、肺炎が5位と入れ替わった背景には、後述するように、誤嚥性肺炎は嚥下機能の障害という老衰によるものだったと理解されるようになったからでしょう。
「終末期医療・看護(ターミナルケア)」では点滴や酸素吸入などの医療的ケアが中心となりますが、「看取り介護」は食事や排泄の介助、そして褥瘡の防止など日常生活のケアが中心になります。このように介護施設の看取りでは、病気治療の終末期をケアするのではなく、自然な人生の終末すなわち老衰の末期をケアすることになります。
日本老年医学会5400人の医師を対象としたアンケートが実施され、1700人余りからの回答では、老衰死とする年齢は、80歳以上30%、85歳以上30%、90歳以上32%という回答でした。半数を超える医師が今後も老衰死が増えると答えています(57%)。そして老衰にあたる対象者で、7割近くの医師が、医療の差し控えまたは撤退を経験しています。
3.看取りの開始時期
それは老衰が始まるときでしょう。老衰とは加齢により心身の能力が衰えることです。サルコペニア→フレイルから要介護に至る過程をみていくことで、個々の老衰の進行度を把握できると考えています。
老衰といっても、生活習慣などにより臓器ごとに進行度合いや速さにちがいがあるようです。つぎに示すような症状や病気(病態)があらわれ、患者の活動性は低下していきます。
臓器別にあらわれるサイン
脳の老化 → 認知機能障害、認知症、傾眠(体内時計の故障)
口・喉(咀嚼・嚥下)の老化→誤嚥、誤嚥性肺炎、嚥下障害
消化管(消化吸収)の老化→嘔吐、便秘・下痢、体重減少
筋力の老化→歩行障害(車椅子使用)や転倒
骨の老化→骨折
皮膚の老化→褥瘡、皮疹、皮膚乾燥
血液細胞の老化→貧血、感染症(免疫力低下)、出血傾向
われわれは多くの高齢者の診療を経験しているうちに、これらの中でも特に嚥下障害が出現し食べることができなくなる状態が続くときは、もう看取りの時期ではないかと考えるようになりました。動物社会でいえば、獲物をとってきて、それを口から食べることができなければ、それは死につながります。人間社会では、特に社会福祉制度や医療・介護体制が確立している国では、周りの手により食べ物を口の中にまで運んでもらうことができます。しかし、それからの咀嚼と嚥下は自分の力が必要です。咀嚼や嚥下に必要な神経・筋肉を使わないことで、その機能はさらに衰えていきます。結果として、唾液などの口腔内分泌物や胃から逆流した経管栄養食の誤嚥がおこってしまいます。
4.100歳の人の秘密
ニューヨークタイムス紙の2010年の特集記事で、コラムニストで作家のジェーン・ブロディが「3つのR」について書いています。
決意(Resolution)
豊かな資源(Resourcefulness)
復元力(Resilience)である。
すなわち秘密とは、暮らし方にあるのです。基礎的なことを自分でできればよいのです。
タバコは吸うな
体重と血圧をコントロールしろ
砂糖を控え、野菜を多くとれ
定期的に運動しろ
睡眠を十分にとれ。
これらのことを実践することは、命が延びるにしろ延びないにしろ、意味があるのです。
いくつになっても、わたしたちは健康を改善できるのです。
(エイジズムを乗り越える アシュトン・アップルホワイト著 城川桂子訳 ころから)