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院長日記

水素ガス吸入療法の効能について

水素ガス吸入療法の効能について説明します。

水素は自然界では無色無臭の最小分子です。水素ガス吸入療法により、水素は肺胞を通って血液中に急速に拡散し、体全体を循環します。次に、水素は細胞膜を迅速に透過し、細胞質、核、およびその他の細胞小器官に分散して生物学的役割を果たすことができます。

さらに水素は血液脳関門を通過します。穏やかなガスの一種であり、これまでのところ水素による人体への細胞毒性は報告されていません。

また、水素は、体温、血圧、pH、血中酸素濃度などの生理機能に直接影響を与えません。

しかしながら、水素は活性酸素種の中でも最も酸化力の強いヒドロキシルラジカルを選択的に消去できます。このため水素が炎症を抑制するメカニズムは、ミトコンドリアの酸化抑制に基づいていることがいくつかの文献で示されています。

ビタミンCなどの抗酸化物質は過酸化水素などの善玉活性酸素も抑制してしまいますが、水素はミトコンドリアの中に入り悪玉活性酸素ヒドロキシルラジカルを消去できる唯一の物質です。

このようにして水素は特にミトコンドリアで産生される悪玉活性酸素ヒドロキシラジカルを消去しミトコンドリアの機能を回復させるため、水素ガス吸入療法による健康効果については、動物実験や初期の臨床試験において、炎症や酸化ストレス、神経障害などの改善が報告されています。

さらには、がんに効くというのも、直接がん細胞に作用するのではなく、免疫細胞のミトコンドリアを守り免疫機能を高めるためと考えられます。

救急医療においては最近次のような報告が報道されました。

実際の臨床の場で、心停止した患者の蘇生後に2%の水素ガスを吸入させることで特に脳機能の回復が期待できるようになりました。これは脳の虚血ー再灌流時に生成する活性酸素種を水素によって除去することで、脳組織のダメージを極力抑え脳機能の回復につなげようとするものです。

心臓のトラブルなどで突然、心停止に陥った場合、ただちに心肺蘇生を行えば心臓の拍動が回復して救命されることは少なくありません。しかし、脳をはじめとした全身の臓器は心臓が停止して血液が巡らなかったために、大きなダメージを受けます。そのため、意識が回復しないまま死亡したり、重い後遺症が残ったりするのが実情です。病院外で心停止になり心肺蘇生で心臓の拍動は回復したものの意識が回復しない状態で2%水素添加酸素吸入(水素ガス吸入療法)を行うと、死亡率が下がり、意識が回復して後遺症を残さずに社会復帰する可能性を高めることが示されました。

心臓自身の虚血ー再灌流と活性酸素種生成による心筋細胞傷害に対しても水素が治療効果を発揮すると考えられます。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。