天国へと帰られたジャニー喜多川氏に向けて
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連日のように目にするジャニーズタレントは、もはや風景のように私たちの日常彩っているが、それは、その影響を気づかせないほどに、私たちの生活の隅々にまでジャニーズが浸透している、ということである。
ファンたちは、ジャニーズの独特の表現に対して戸惑いを覚えつつも、だんだんと癖になっていくように、その表現を受け入れる。最初にあった違和感を解消され、いつの間にか魅了されている。ファンでない人も、その活躍を横目で見てなんとなく形をしている。現在のジャニーズ帝国は、そのようにしていつの間にか築き上げられた。
第二次世界大戦と朝鮮戦争と言う2つの戦争体験したジャニー喜多川氏がとった行動を見ると、そこには海外「アメリカ」との一筋縄ではいかない関係が見てとれる。自分が生まれ育った国アメリカから攻撃された体験を持つ少年は、その後そのアメリカ側の人間として、敗戦国日本の少年たちに野球というアメリカ発祥のスポーツを通じて関わっていこうとする。要するに彼自身、戦争において敗者でも勝者でもあった。ジャニー喜多川氏はアメリカ側の立場からエンターテインメントに関わってきた。
ジャニー喜多川氏にとって芸能活動は、教育的な精神に基づいたものであった。ジャニーズ事務所が、アイドル育成とともに一人ひとりの人格形成を目指すことを標榜している事はよく知られている。ジャニー喜多川氏がいつも注意していること、それは難しいことだが、すべての子に分け隔てなく目線を向けてやることだ。特に同じグループ内で不平等があってはならない。そうしたことがしこりになってしまったら、もうおしまいだ。誰か1人を特別扱いしないことが1番大事であった。そこにあるのは、素朴な少年を導く教師のようなジャニー喜多川氏の姿であった。一貫して彼が重視し言及しているのは、「個性の尊重」と「機会の平等」である。それはアメリカが戦後日本に教えようとした民主的な価値観と少なからず重なってくる。ジャニーズ事務所は、アメリカの様々な文化や価値観を少年たちに教えた。朝鮮戦争後の1953年に再び来日した者に北川氏は、当時、在日アメリカ軍施設だった男信徒の配置に少年たちを集めて、野球を教えていた。ジャニーズにとって野球は、非常に大切なものだ。ジャニーズの起源を振り返るとき、そこには常に野球の存在があり、戦後日本において、野球は、民主主義と言う響きとともにあった。野球にある時間と空間の無限性、それは何よりも「自由」を象徴していた。どんなに強い打者にも、弱い打者にも、等しく打順が回ってくることによって、「平等」の観念は明白だった。そして実際、ジャニー喜多川氏が事務所創業期から少年たちに繰り返す言葉は、「You(少年)たちはいつもフリーに夢を持っていなさい」だという。
アイドルとは「自我」を表現する存在ではなく、観客やプロデューサーが求めるものを演じる存在だ。このようなアイドルの態度は、ともすれば本格主義的なアーティストの立場から批判される。しかし、現在から振り返れば、ジャニーズの強さとはむしろ、日常とは異なる世界観が貫徹されていることにある。そこには、「自我」が入り込む余地はほとんどない。ジャニー長谷川と言う人は、アメリカで強烈に心に刻みこんだショービジネスへの熱い思いを追い求める、典型的な感覚人間に他ならない。そのファンの思考種族分析した審美眼には脱帽せざるを得ない。ジャニーズにおいては、「今日本で流行しているものは何か」とか「今日本では何が起きているのか」といったことは、それほど重視されない。ジャニーズが目指すのは、日本人を徹底的に囲い込んだ上で、見たこともないようなエンターテインメントを見せつけることである。このような姿勢が、日本人に新鮮な驚きをもたらしてきた。
ジャニー喜多川氏が打ち立てたのはファミリー意識と言う戦略。ファンの両親にも好かれるアイドル、コンサートに家族連れで行けるようなアイドルが理想であり、それが根本的なジャニーズ精神であり、清潔感と親近感が必要不可欠な条件となった。今や「ジャニーズ系の男の子」とか、「ジャニーズ顔」と言う表現が、日常会話の一部として定着している。ここで言う「ジャニーズ」とは、すなわち「ジャニーさんの」という意味に他ならない。「ジャニーさんの発掘したアイドルスター」「ジャニーさんの育てたアイドルスター」「ジャニーさんのプロデュースしたアイドルスター」「ジャニーさんの作り出した若者のトレンド」「ジャニーさんの発信する若者文化」など、これらのことが全て、1人の人間の手によって世の中に送り出されている。この事実に、あらためてジャニー喜多川氏の偉大さを見るような気がする。
参考文献:
1. 矢野利裕、ジャニーズと日本:国民的アイドルSMAPはいかにして生まれたのか? 講談社現代新書
2. 小菅宏、芸能をビッグビジネスに変えた男「ジャニー喜多川」の戦略と戦術 講談社
3. 江木俊夫、小菅宏構成、ジャニー喜多川さんを知ってますか?:初めて語る伝説の実像 KKベストセラーズ
4. 大田省一、ジャニーズの正体:エンターテインメントの戦後史 双葉社