私たちのYouTube「水素ガス吸入療法」に寄せられた質問への回答
細胞のエネルギーは、細胞質とミトコンドリアという2つの場所で作っています。
細胞質でのエネルギー代謝経路は、主にブドウ糖を分解して体内で使いやすいエネルギー源に作りかえていく「解糖系」と呼ばれるものです。しかし、このルートは代謝効率があまりよくありません。ブドウ糖の一部が分解の途中で乳酸に変化し、完全に酸化されないからです。
このため正常な細胞では、エネルギー(ATP)の主要な供給源はミトコンドリアです。ミトコンドリアにおける「酸化的リン酸化」などにより、呼吸鎖の電子遷移による酸素(O2)が水(H2O)へと還元反応を利用して生成されます。
ところが、がん細胞では、先ほどの「解糖系」(好気的解糖)が顕著で、LDHを介して乳酸がつくられ、ミトコンドリアの「酸化的リン酸化」によるATP産生は低下します。ミトコンドリアでは活性酸素種(ROS)が産生されますので、ROSによる細胞傷害を回避しているのかもしれません。
今回の患者さまは、肝臓に転移しているということですので、急速に増殖しつつあるがん細胞では、「解糖」が速い速度で進行し、つくり出された大量のピルビン酸は還元されて乳酸となって細胞外へと放出され、その乳酸は肝臓で糖新生に使われるという、がん細胞のエネルギー代謝の状態になっていると思われます(がん悪液質)。
このため、水素を用いる治療をおこなう場合、
がん細胞のミトコンドリアに与える影響や、
今回計画されている治療へ影響などを、やはり考える必要があるのではないでしょうか。
私たちのクリニックでは水素ガス吸入療法を用いていますが、
私たちが期待しているのは、
傷害された細胞やミトコンドリアが産生する悪玉活性酸素(ROS)を水素で水に変え、
正常な細胞(特に免疫細胞)の機能を回復・維持し、抗腫瘍免疫を高めることなのです。