酸素の毒性:有害な酸素環境下で生存するための進化⑥ 理想的な酸素分圧
酸素毒性の研究は、現代医学にも重要な影響を与えています。
例えば、老化やガン、アルツハイマー病など、多くの病気が活性酸素と関係していることが分かっています。 これを理解することで、抗酸化物質を活用した治療や、健康的な生活を実現するヒントが得られるのです。
すべての組織には、代謝恒常性を維持できる理想的な酸素分圧 (PO2) があり、これは外因的変数 (温度、気圧など) と内因的要因 (代謝率、エネルギー源、生理的予備力など) によって制御されます。
組織の PO2は、酸素供給、酸素消費、血流によって制御され、これらはさらに心臓血管系、呼吸器系、神経系の複雑な相互作用によって制御されます。
通常の状態では、酸素分圧(PO2)は人体で大きく異なり、
動脈血では100 mmHg(13.2% O2)
脳では34 mmHg(4.4% O2)
骨格筋では30 mmHg(3.8% O2)の範囲です。
脳や心臓などの特定の臓器は好気性が高く、低酸素状態に敏感ですが、
骨格筋などの他の臓器は長期の低酸素状態に耐性があります。
組織によって酸素の「設定値」が異なるだけでなく、個人や病状によっても最適な酸素設定値があると考えられます。このような低酸素状態や高酸素状態を理解することで、恒常性と疾患原因の相互作用をより深く理解でき、治療として理想的な値を設定することができます。
酸素補給は入院患者に提供される最も一般的な治療法の 1 つですが、低酸素症の明確な証拠がない場合や、人体が必要とする量を超える場合(動脈血酸素分圧(PaO2)> 100 mmHg)がよくあります。この治療法が有害であるという臨床的証拠が増えています。
重篤な患者の場合、酸素過剰は
集中治療室(ICU)死亡率の上昇
人工呼吸器を使用しない日数の減少(つまり人工呼吸器をはずすことができない)
外傷性脳損傷患者および心肺蘇生後の神経障害(すなわち後遺症)と関連しています。
さらに、全身性低酸素症が人間の寿命を延ばす可能性を示唆する疫学的データもあります。
たとえば、何世紀にもわたって高地で生活してきたチベット人百寿者の数は、最近になってから高所に移住した漢民族と比べて有意に多いようです。寿命が延びるメカニズムは不明ですが、体温の低下、基礎代謝率の低下、老化関連遺伝子の低酸素状態への適応など、さまざまな要因が二次的に作用している可能性があります。
そして、高地に住んでいる、または高地に適応した集団では、
心血管疾患や、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、肥満などの
加齢関連リスク因子が減少することを示す広範な疫学的データがあります。