Medical Topics
医療トピックス

健康講座アーカイブス

医療トピックス

健康講座アーカイブス

聚楽内科クリニック院長先生の
健康講座

第9回:

血管年齢のはなし

    開催日:
    2018年7月13日
    場所:
    熊本城東ライオンズクラブ例会
    講師:
    聚楽内科クリニック院長 武本重毅

 本日は血管年齢についてお話してみようと思います。

 血管年齢とは何を意味するのでしょう。そして血管年齢が実年齢より若いというのは良さそうですが、実年齢よりも高齢だったらどうなるのでしょう。

 血管年齢は簡単な機器で測定することができます。私が勤める聚楽内科クリニックでは、ベッド上に寝ていただき、両腕と足首にマンシェットを巻き、5分で終わる検査です。血管年齢とは、すなわち動脈硬化の状態であり、その他、血管閉塞の有無、心臓の機能までわかります。これらの情報を元に、生活改善の指導をおこなっています。

 動脈硬化の主な原因として、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、喫煙の5つを挙げることが出来ます。健康な血管は柔らかく、心臓からの血液排出の度に、その圧力に応じて伸び縮みしています。高血圧症の患者では、その血管壁に対する圧力の高い状態が続いていますので、血管壁の緊張した状態が続き硬くなっていくと考えられます。また血管壁はゴムホースのような均一な物質でできた管ではなく、細胞が何層にも重なって構成しており、その一番内側の細胞間隙から外の層へと細胞や物質が入り込むことができます。このため高脂血症や糖尿病では、中性脂肪や悪玉コレステロールが血管壁に入り込み、これを処理しようと集まった白血球により炎症が起こり、血管内腔にプラークという塊ができてしまいます。このようにして血管の狭窄が進みます。そして血圧はさらに上昇するという悪循環が生まれます。肥満は腹囲で男性85cm、女性90cm以上の場合をいいますが、さらに先ほど挙げた高血圧、高脂血症、糖尿病のうち2つ以上を合併すればメタボリックシンドロームと診断されます。脳卒中や心臓病を起こす危険性が非常に高い状態です。最後に喫煙ですが、ニコチン、タールの他、少なくとも2000種類以上の有害物質が煙の中やその周り、喫煙者の呼気に含まれています。それらが、肺や消化管から血液中に入り、悪玉コレステロールと同様に血管壁に入り込みます。喫煙は血管を縮め血圧を上昇させます。しかし喫煙による脳卒中や心臓病のリスクは、禁煙により改善していきます。

 では、血管年齢を若返らせるには、どうずればよいのでしょうか?

 まずは運動、有酸素運動です。有酸素運動は善玉コレステロールを増やし、血液中の悪玉コレステロールの血中濃度を低下させます。良い姿勢で40分ほど早歩きをしてみましょう。足腰に痛みがある場合はプールでの水中歩行が良いでしょう。あるいは雨の日や外に出るのが億劫な方は、テレビを見ながらの足踏みや昇降運動(専用の台を購入できます)をお勧めします。次にレジスタンス運動といって、筋肉をつける運動です。最近よく言われているのが、一日10回のスクワットでしょうか。何も本格的なジムに通ってバーベルを持ち上げる必要はありません。筋肉を使って糖を消費し、筋肉を増やすことでインスリン抵抗性を改善していきましょう。そして柔軟体操、ストレッチで血管も一緒に身体を柔らかくしましょう。以上の3種類の運動をミックスした複合運動として、ヨガや太極拳があります。腹式呼吸で有酸素運動しながら、姿勢を維持する筋肉を使い、静的(あるいは動的)ストレッチを行います。

 運動よりももっと日常的に重要なのが食事です。三大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂肪、そして食物繊維、ビタミン、ミネラルを効果的にバランスよく摂取しましょう。中で最も注意していただきたいのが、動物性脂肪、飽和脂肪酸です。お肉についた脂身はできるだけカットしてください。脂肪のカロリーは1gあたり9 kcalと、糖(4 kcal/g)の2倍以上です。そして植物や青魚由来の不飽和脂肪酸とちがい、悪玉コレステロールを上昇させ動脈硬化の原因となります。この脂肪吸収を抑えるには野菜を一日350g、すなわち野菜サラダで5皿~6皿毎日食べることが推奨されています。実際にこれは大変ですので、炒めたり、お汁の具として入れたり、野菜のカサを減らす工夫が必要です。野菜や果物を摂取することで、食物繊維だけでなくミネラル、特にカリウムを取り込むことができ、これはナトリウム、すなわち塩分を体の外に排出することを助けますので血圧を下げるはたらきがあります。ただし腎臓が悪い場合にカリウム摂取は身体によくありませんので注意が必要です。

 最後に禁煙のお話で締めくくりたいと思います。

 血管年齢と同じように肺年齢というのがあり、これに大きな影響を与えるのが、喫煙指数です。一日の本数×年数で計算し、400を超えないようにするべきであると学生時代に習ったのを覚えています。それで私自身、医師になってからも喫煙を続けていましたが、その喫煙指数が400になったところで禁煙し、もう20年になります。理論的には非喫煙者と同じきれいな肺になったはずです。先ほど言いましたように、タバコの煙やその周りには2000種類以上もの化学物質が撒き散らされています。これらは、喫煙している本人よりも副流煙という形で身体に入ってくる周りの方に高い濃度が計測されています。喫煙者は吸っている周りの人に害を及ぼしていることを忘れないでください。

 最近の自然災害で被災された方々にお見舞い申し上げます。避難所の生活で大変なのは水や電気などライフラインの確保です。血管は皆さま身体の中で、体中にはりめぐらされ、酸素や栄養を届けるライフラインです。古くなって破ければ大変なことになります。今日お話したことを覚えておいていただいて、いつまでもお元気に過していただきたいと思います。

写真1 卓話をしている筆者

写真1 卓話をしている筆者

※この記事は院長が行った講座の内容をまとめたものです。