医療トピックス
健康講座アーカイブス
聚楽内科クリニック院長先生の
健康講座
第12回:
動脈硬化と受動喫煙
- 開催日:
- 2019年7月10日
- 場所:
- 熊本城東ライオンズクラブ例会
- 講師:
- 聚楽内科クリニック院長 武本重毅
昨年に続いて血管の話をしたいと思います。
血管は、人間の体を1つの社会と考えると、我々の生活の中にある、道路や鉄道であり、生活に大切な水を供給する水道管でもあり、電気を運ぶ電線でもあります。つまり生きていく上で必要な酸素や栄養素を、ある臓器から取り入れそして体中の組織や細胞へと届けるのに必要なライフラインです。
先ほど白血病のことも話して欲しいということでしたので、少し血管の中を走るトラックや貨物列車のような赤血球、白血球、血小板という血液細胞に焦点を当ててみます。すべての細胞は骨の中にある骨髄の中の幹細胞から発生してきます。元は1個の細胞から分化して別々の細胞になり未熟な段階から成熟の段階へと成長して血液中に出てきます。この成熟が途中で止まってがん化したものが白血病です。白血病細胞は骨髄の中で増え、血液中にどんどん送り込まれてきます。骨髄というスペースの中で他の正常な血球が成長できなくなります。通常、血管の中を流れる血液で多数を占めるのが赤血球なので、血液は赤いと誰もが知っていますが、白血病の患者さんでは白血病細胞が増え正常の血液細胞、赤血球などが減少するため、血液が白くなります。このため昔の人が白血病と名づけました。
話を戻します。そういう血液細胞や栄養成分などを体の隅々まで流通させているのが血管です。しかしこの血管も歳をとれば、水道管が錆びたり破裂したりするように、心筋梗塞や腎不全、そして脳出血や動脈瘤破裂の原因となります。高速道路やトンネルも時間が経てば修理が必要ですよね。このため「人は血管とともに歳をとり老いる」といわれます。
その血管の異常で最も代表的なのは動脈硬化でしょう。そしてその原因については前回お話ししたんですけども覚えてらっしゃいますでしょうか。大きく5つの原因があり、1つは高血圧、次に糖尿病、そして高脂血症と肥満です。最後の1つは病気というわけではないのですが何でしたか。そう喫煙です。タバコの害は何も肺や呼吸器だけに起こるわけではありません。その煙の中に4000種類という化学物質、200種類もの有害物質、60種類もの発がん性物質が含まれており、血液中に溶けたそれらの物質により血管が痛んでいきます。
いくつかの例をご紹介しましょう。
タバコの煙に含まれるニコチンが肺から吸収されて血液中の濃度が上がります。ニコチンは副腎皮質と言う臓器を刺激してカテコラミンというホルモンを遊離します。そのホルモンは交感神経系を刺激しますので、その結果、末梢血管の収縮と血圧上昇、心拍数の増加を起こします。血管内皮細胞の中からトロンボキサンA2が遊離します。これはニコチン以上に強力に血管を収縮させ、さらには気管支も収縮させます。タバコの煙の中に含まれる一酸化炭素は、血液中の赤血球のヘモグロビンと強力に結合します。例えば練炭自殺や不完全燃焼のときに人が不幸にも死亡する事件がありますが、これはこの一酸化炭素が強力にヘモグロビンと結合して酸素が結合できなくなるため動脈血の慢性的な酸素欠乏状態となるからです。そして酸化ストレスを増大させます。酸化ストレスが慢性的に血管壁にかかると、血管内皮機能障害や血管の平滑筋細胞の活性化が起こり血管収縮や血管の炎症を生じます。血管内皮の障害により一酸化窒素の産生は減少します。一酸化窒素は血管拡張作用があるので、これが減少することにより心臓の筋肉に酸素や栄養を運ぶ冠動脈の攣縮が起こりやすくなります。このような結果、心筋梗塞、脳梗塞やくも膜下出血、高血圧症、腹部大動脈瘤の発症や破裂、閉塞性動脈硬化症など末梢血管疾患が起こりやすくなり、これらは喫煙が影響していると報告されています。
最初の方で述べた有害物質は、吸ってる本人の煙よりもその周りに広がる副流煙の方に多く含まれており、すなわち周りの人たちの受動喫煙がほんのわずかな量であっても、心臓発作の発症率が急激に増加することが明らかになっています。このため受動喫煙を何とか防止しなければいけないという世の中になりました。この7月1日より改正健康増進法が適用され教育機関、医療機関、児童福祉施設、行政機関等での敷地内禁煙が実施されています。
既にご存知のように今年の1月からは喫煙を行う場合は周囲の状況に配慮しなければなりません。例えば子供や患者さんなど、特に配慮が必要な人が集まる場所や近くにいる場所などでは喫煙をしないようにしてください。そして来年の春4月1日には今回の第一種施設以外の施設でも原則屋内禁煙となります。特に管理者の方はこれを守らなければ罰金等の罰則規定がありますので注意してください。
最後に、禁煙をすれば、1時間以内に血圧や脈拍が下がり始め落ち着いてきます。半日で血液中の一酸化炭素濃度が正常になります。2週間から3ヶ月の間に心臓や肺の機能が回復します。1年で心筋梗塞などの危険性が半分になります。5年で肺がんの死亡率が半分になります。10年経てば心筋梗塞などの冠動脈疾患の危険性が非喫煙者と同じ位になります。
皆さん、周りの人の健康に配慮しながら、お体を大切にしましょう。