認知症で寝たきりの母がうまく食事を嚥下できなくなりました
これは今や非常に重要な問題です。昨日のニュースで熊本県の65歳以上高齢者は県民の30%以上を占めるようになり、その半分が75歳以上の超高齢者という高齢化が進んでいる現状を知りました。その高齢者死亡の5大原因として最近増加しているのが、「肺炎」と「老衰」です。これらは高齢化にともない身体の諸機能低下、特に嚥下や痰排出がうまくできないとうことと関係しています。また平均寿命が毎年伸びていること、そしてそれに伴う「死」に関する考え方の変化が影響していると考えられます。
今から30年ほど前であれば、寝たきりの高齢者であっても心肺停止させてはならない、蘇生しなければならないという考えがありました。このため心臓マッサージや気管内挿管と人工呼吸という流れで対応していました。しかしほとんどの高齢者の場合、それは多額の費用をかけた一時的な延命行為でした。心拍がもどらないとわかっていながらご家族が到着するまでは心臓マッサージを続けるということもありました。それが時間の経過とともに、その高齢者それぞれに寿命があると考えられるようになり、2005年ごろから「老衰」という死亡原因が右肩上がりに増えています。つまり人はいつか身体機能が限界を迎え生命維持が難しくなるときがくるという認識が広まってきたのだと思います。
特に平均寿命を超えた超高齢者で寝たきりの生活、さらには認知症のために家族の顔もわからないような状態にある患者にとって、「生きがい」は何なのか、ということも考えなければなりません。おそらくは唯一の楽しみは美味しいものを食べることではないでしょうか。そして、食事を嚥下できない、すなわち口から物を食べることができない状態になったとき、これは例えが悪いかもしれませんが、動物社会において生きていくことは難しくなったというサインでもあります。
胃ろうの増設手術を受けることができる条件を満たしたとしても、胃ろうからの栄養摂取を始めれば嚥下機能はますます低下していきます。高齢者が使わない神経や筋肉は日々急速におとろえます。このため唾液や胃ろうから注入され食道に逆流した栄養物を誤嚥し肺炎になるということもしばしばみられます。
食べ物を租借し、飲み込んで、その食べ物が無事に気管や肺ではなく食道に入り、さらに胃や腸の方に送られていく、意識しないでもできていた当たり前の機能が加齢によりはたらかなくなったとき、これは「老衰」のサインであり、生命維持が難しくなったことを表していると考えてよいのではないでしょうか。