Director's blog
院長日記

7年ほど前にJICA国際研修のやり方について考えていたこと

武本 重毅

JICA集団研修 第2回「次の10年に向けてのAIDSの予防及び対策」コース
国立病院機構熊本医療センター 武本重毅

 今回、約5年ぶりにアフリカからの研修員が中心となったが、以前と比べその質の高さとその国際感覚の良さに驚いた。これはグローバル化が進み、特に情報の共有化が達成されたことと、発展途上国の中にも経済的にも豊かな人々が育っていることの表れではなかろうか。

 実際にアクションプランの内容をみても、単に経済的な支援を要求するような発表ではなく、自国の政府対策と資金援助をもって、いかにAIDS予防と感染拡大阻止に取り組むかという、実に実践的な計画が立案されていた。中でも○○国の割礼とコンドーム使用促進によるによる感染予防がそれぞれ異なる研修員から発表され、組み合わされた活動が実現すれば、どの位の効果が生まれるのか楽しみである。また割礼による予防に対する取り組みを新たに参加2ヶ国が開始することを計画していた。感染予防のために特に母児感染対策は既に多くの国々で取り組まれているが、日本がHTLV/ATL対策として推奨している母乳感染予防のための方法について注目されていた。またこれからも健全な社会を維持するために特に若い世代の感染率を減らす努力が必要と考えられた。

 そして日本の感染症予防に大きく貢献した輸血制度の改革については、ほとんどの国々が驚きをもって知り、その結果、参加国での血液由来感染症対策が進められることになるきっかけとなるであろう。

 しかし上記計画を進めるためにも最も力を注がなければならないのは、HIV/AIDS診断検査の標準化である。参加国によっては、感染の確定診断あるいは日本の血液スクリーニングに用いられているPCR法を行っている施設が、国の中央の検査機関1ヵ所しかない状況であるとか、中央から離れた感染地域の住民については検査すら十分に進められていないなどの現状が報告された。またARTによる治療法の普及が進む一方で、CD4陽性細胞数検査やウイルス量検査など治療効果を判定するための検査ができていない(ガーナ)。したがって毎年のようにWHOやUNAIDSが発表している統計報告だけをみて対策を立てるのではなく、各国の実情を把握し、もっと現実的な対策を早くからうっておかないと、次の10年で起こる変化を予測できず、大きなしっぺ返しを受ける危険性がある。

 また今回から研修員の中から講師として、自国での取り組みや現在の問題点についての発表を行ってもらったが、そこから「いかに治療を継続しフォローアップから脱落する患者を減らすかという、次の10年のAIDS対策における重要なテーマが生まれ、研修に参加した11ヶ国に開催国日本を加えた12ヶ国の現状と今後の対策についてのアンケート調査が行われた。そしてこの結果をまとめ、我々第2回「次の10年に向けてのAIDSの予防及び対策」研修コースからの提言として、外国紙に発表することを考えている。

 講師の高齢化と内容の古さも問題のひとつに挙げられる。

 世界経済の状況によっては、増え続けるHIV感染者全てに対して、その生涯にかけて各国が治療を無償で提供するということが難しくなるかもしれない。

 このようにこれから大きく変わるであろうHIV/AIDS患者を取り巻く環境と、各国における質の違いに対応するため、もっとグローバルな視点で、しかもレトロウイルス感染症の専門家ではなく、結核など他の感染症や日本における検査情報システムに関する専門家など様々な分野の一流の講師を呼んで、研修員全ての要求に対応できるような研修へと進化させていきたい。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。