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院長日記

新型コロナウイルス感染Q and A(特養老人ホーム風の木苑での教育講演にむけて)

武本 重毅

Q1. クラスターを封じ込めることが大事ですが、実効再生産数と関係があるのでしょうか? 病院や施設でのクラスターはこれにあたるのでしょうか? 

A1. 実効再生産数とは、潜伏期間中は他者に感染させることなく、発症期間の最中だけ他者に感染させうるという定義で、将来予測を行える仕組みです。最近では発症前から感染させることがわかってきましたし、病院や施設では、外部からたった1名の感染者が内部と接触することでクラスターとなり得ますので、したがいまして実効再生産数は参考にならないでしょう。

 

Q2. 発症2日前から感染力がある、無症状のうちということであれば体温測定には反映されるのでしょうか?

A2. おっしゃるとおり、無症状で感染させるということですので、だれから、いつ、どこで感染したのかわからない、感染経路が特定出来ない場合が増えてきています。ただ、その全てではありませんが、感染リスクを判定する簡易検査のひとつとして、体温測定は必要です。

 

Q3. インフルエンザ予防接種は例年通りに実施の予定でよろしいですか?

A3. はい。新型コロナウイルス感染の第二波・第三波がくることを考えれば、少なくともインフルエンザウイルス感染症だけでも予防しておくべきです。

 

Q4. 世間も恐れているインフルエンザの流行期とコロナ感染の拡大が重なると医療体制はどうなりますか?

A4. 普通のクリニックや病院外来では対応するのが困難です。そのような状況では、インフルエンザ抗原検査も新型コロナウイルス検査と同じ発熱外来やドライブスルー方式のPCRセンターで一緒に行われるのが理想です。どちらか一方の感染なのか、同時感染なのかで、治療方針が大きく異なるでしょう。要介護度の高い入所者の場合は、施設内で検体を摂取しなければならず、対応が非常に難しくなります。県や市の専門家と相談しながら検査と治療を進めることになるでしょう。

 

Q5. 万が一、特養老人ホームで発症者が出た場合は入院できるのでしょうか?

A5. 例えば、アビガンの臨床試験の場合、対象者は、20歳から74歳で、酸素吸入が必要な患者は組み入れず、労作時のみ呼吸困難を呈する肺炎の患者のみが対象となります。特効薬、特に高齢者にも安全に使用できる治療薬がないというのが大きな壁です。要介護度が高く持病を持っている高齢者(後期高齢者)の場合、今の段階では、効果的な入院治療を受けることが難しいかもしれません。

 

Q6. 今回のような感染症の流行で防護衣などの準備が不十分なため、とても不安です。日頃からどの程度の備蓄をしておいたらいいでしょうか?

A6. 特養老人ホームとして、これまで取り組んできた新型コロナウイルス感染流行時の入所者介護に必要な分を確保するようにしましょう。しかしながら、施設内に新型コロナウイルス感染者が出た時点で、介護事業は崩壊します。その後は、専門家に中に入ってもらい、ゾーニングなど環境の緊急対応を急ぐと共に、防護衣など必要な物品は支給していただきましょう。そして、施設から外に感染が広がらないようにしなければなりません。

 

Q7. 今後PCR検査が全国レベルで実施されるとしたら、何が変わっていくのでしょうか?

A7. これまでと同様に感染経路を追いながらクラスターの存在を明らかにし、感染拡大の抑制に役立つでしょう。そして治療面では、まずは治療薬の臨床研究対象者を確保できるようになり、次の段階では民間の医療施設で使用できる特効薬を投与するための対象を判定するのに利用されるようになるでしょう。

 

Q8. これから先は生活スタイルの見直しをしていかなければならない、福祉施設としても時流の変化に即応した柔軟な対応が必要になってきますが、どのようなことを感じておられますか?

A8. 今回のような目に見えないウイルスにより、生活環境や経済に大きな打撃を受けるということが実感できましたので、今後二度と同じ過ちをしないように、生活スタイルは大きく変化し、新型コロナウイルス出現前の元の状態にもどることはないでしょう。「三つの密」を徹底的に避けるとともに、「人と人の距離の確保」「マスクの着用」「手洗いの手指衛生」等の基本的な感染対策の徹底が続くでしょう。すなわち、ウイルス感染が起こりやすいような移動手段・宿泊施設・飲食店・集会場等では、その対策が求められ、形を変えて運営継続を図ることになるでしょう。クラスターが発生すると致命的な高齢者施設など福祉施設におきましては、出来るだけ接触を避け、ソーシャルディスタンスを保つことができるように、オンラインやウェアラブル機器の利用が期待されます。入所者と家族の面会制限が続く中、スマートフォン等を利用するオンラインでの面会が推奨されています。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。