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院長日記

新型コロナウィルス感染第二波に備えて

武本 重毅

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2020年6月5日 特養老人ホーム風の木苑での教育講座
聚楽内科クリニック院長 武本重毅

本日の内容
1. はじめに
2. 最近の感染状況
3. 起こしてはならない施設内感染
4. 老人ホームとしての感染リスク
5. 次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水
6. おわりに

1.はじめに
この会も今回で3回目になります。
今年に入ってから、この施設では、手指消毒や環境消毒はもちろん、入所者ご家族の面会制限やスタッフの健康管理など徹底したウイルス感染対策を続けていただき、何とか入居者の皆さまの健康を保つことができています。
本日は、一難去ってまた一難、次にやってくる新型コロナウイルス感染第二波への対応について、お話します。

2.最近の感染状況
これまで比較的感染者の少なかった九州ですが、
確かに一旦は落ち着いたかにみえましたが、
北九州から第二波の流れが始まりました。
お隣の韓国でも
一旦は完全に抑えこんだかにみえましたが、その後は相次ぐ集団感染がニュースとして伝わってきます。

今回の北九州での感染の特徴は、感染経路を追えない人々の存在と、
何と言っても高齢者施設や医療施設がクラスターになっていることです。
八幡西区の特別養護老人ホームわかば
産業医科大学病院など、少なくとも4医療施設がその後の対応に苦労しています。

3.起こしてはならない施設内感染
みなさん、私たちは、それぞれの人生の中で、数多くの失敗を経験します。
そして、その失敗から多くのことを学び、成長していきます。
しかし、失敗には、2種類あるのをご存知でしょうか。
「取り返しがつく失敗」と「取り返しのつかない失敗」です。
つまり、「セカンドチャンスが許される失敗」と「そうでない一発アウトの失敗」です。
そして、この「取り返しのつかない失敗」は、簡単な方法で予防できることが多いのです。
(参照:山口真由著、エリートの仕事は「小手先の技術」でできている。)

新型コロナウイルス感染症は、高齢者や持病をもつ人が重症化します。
肺炎がおこり、酸素がなければ息が出来ない状態になります。
延命処置を希望すれば人工呼吸を開始するでしょう。
しかし、多くの高齢者は、医療スタッフの懸命な治療がおこなわれても、死亡してしまいます。

このウイルスが恐ろしいのは、このウイルスに対する特効薬やワクチンがないことです。
インフルエンザであれば、スタッフそして入所者と、一般の人々よりも早めに予防接種します。そしてタミフルがあります。入所者の誰か、あるいは勤務している皆さんの誰かが、インフルエンザになっても、その本人を治療することができるし、周りの人には予防投与をすることができます。
もちろん、インフルエンザで死亡するということもあります。
しかし、もし、この施設の入所者が新型コロナウイルスに感染したら、治療することも、その周りの入所者を予防治療することも、できません。
そして、クラスターとなり、一度に多くの入所者を失わないように必死になって対応することになります。
これは、「取り返しのつかない失敗」に相当すると、私は考えます。

4.老人ホームとしての感染リスク
施設内での色々な処置、サービスでは、身体を直接触る必要があり、どうしても密接にならざるを得ません。したがって、施設内環境の整備はもちろん、施設内ではたらくスタッフの体調管理がとても重要なのです。

クラスターが発生すれば、感染した入所者をどうするのか、感染していない入所者をどうするのか、この施設をどうするのか(入所だけでなく、デイサービスも閉じることになるでしょう)、みなさん従業員の仕事をどうするのか、等々その失敗は取り返しのつかないものになります。そして、それ以前の信頼、高齢者サービスの日常をとり戻すのには、何ヶ月かかることでしょう。

今、利用者や家族からみなさんに求められるもの、それは、利用者が安心して残りの人生を安楽に過ごすために必要な、感染防御対策なのです。
この感染病御対策については、以前お話しました。

5.次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸水
環境消毒には、ノロウイルス感染症への対応でご存知のように、次亜塩素酸ナトリウム(ハイター、ブリーチ)が、とても有効です。わたしも米国でウイルスを研究していたときには、培養細胞を破壊したり、それを扱ったクリーンベンチや器具を消毒するのに、必ず使っていました。

最近では、それとは違う、次亜塩素酸水というものを用いる商品がたくさん売り出されています。ところが、その中には次亜塩素酸水を空中に噴霧して消毒するというものまであります。以前にもお話しましたが、身体に使用できる消毒薬は、口腔内などはイソジンガーグル、皮膚はアルコールです。次亜塩素酸は細胞を破壊することで、強い消毒作用を示すので、人間の細胞に対しても毒性があります。したがいまして、その次亜塩素酸を肺の中に取り込むようなことは、危険ですので、絶対にやめてください。

6.おわりに
一体、このウイルスとの戦いは、いつまで続くのでしょうか。
そして、このような高齢者施設での、厳格な感染対策は、いつまで続ければよいのでしょうか。

ひとつは、先ほど申し上げましたように、特効薬が手に入り、予防接種の効果が期待できるようになったときです。
そして、もうひとつは、行政やコンビニ、レストラン等生活に関わる施設でパーテーション等が取り除かれ、ソーシャル・ディスタンスを考える必要がなくなり、「三つの密」を恐れることなく暮らせるようになったときでしょう(この対策が終わることはないと思いますが)。
それまでは、みなさん、新型コロナウィルス対策を継続していきましょう。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。