Director's blog
院長日記

新型コロナウイルス感染下で限界がみえてきた民主主義(1)

武本 重毅

アラブの春から10年が経ち、市民が期待したような理想的な社会は、結果として何も実現しなかった。

つまり、中東諸国でおこなわれていた独裁政治の崩壊により、人々は進むべき方向がわからなくなった。もう元にもどることはできないかもしれない。わたしは7年前の今頃は、JICAの専門家としてエジプトに派遣され、スエズ運河大学医学部などで講義していたが、今となっては夢のような昔の話になってしまった。

 

今回の新型コロナウイルス感染パンデミックの世界では、自由な行動が感染を拡大させ社会をより深刻な事態へと陥れることがわかった。

そして、国民の移動や行動をすることで、新規感染を減少させることができるが、仕事を失い生活の困窮を招いた。とくに世界各国の有名な観光地はもちろん、観光客相手の店やブランド店、さらには飲食業の店が閉店に追い込まれている。

移動の制限は、旅行業界にも大きな負債を強いることになった。

昨年までは当たり前であった海外旅行、それが一変してしまった。わたし自身もタイ王国とのネットワークがあり、インバウンド・アウトバウンドで経済の活性化をと5年ほど前から考えていたが(今となっては幸運にも融資を得られず頓挫)、すべてのことをポストコロナの状況に合わせて修正しなければならない。タイで最大のタイ国際航空は経営破たんし、全日空も日本航空も大赤字に陥った。国内でもJRの経営が打撃を受けている。その中でわたしたちが利用していたJR九州は熊本駅再開発を来年春の目玉のひとつとして掲げている。上手くいくといいのだが、一方で、JR九州高速船が福岡~釜山航路のために導入した大型高速船は、全く稼動する機会がなく博多港に係留され続けている。新型コロナウイルス感染が春の訪れとともに少しでも収束に向うことを願うばかりである。

 

アラブの春のときとは違うのだけれど、アジアでも民衆の不満がくすぶっている。

香港では民主化運動が続き、タイでは今まで国を統制してきた王室に対して、これまであり得なかった批判を浴びせる反体制デモが勃発している。タイ王国との間に、この10年で友好的なネットワークを築いてきたわたしではあるが、日本とタイ王国両国の立ち位置や情勢によっては行き来や活動が難しくなるのではないかと危惧している。

 

そのような中、

世界の中で、経済でも新型コロナウイルス対策でも一人勝ちとなっているのが中国である。

中国国内だけで14億人を束ねる巨大な社会主義国家だ。さらに世界各国への移民を含めると一体何人になるのだろう。今や世界各国の主要都市にはチャイナタウンがあり、移民2世がビジネスの分野で活躍している。世界史で学んだ4大文明発祥地の一つであり、人類史上最も長く(覇権争いはあったが)アジアの大国として君臨してきた中国。近代化に遅れていたが、そのパンドラの箱を開けたのは、なんと今や犬猿の仲となっているアメリカ合衆国であった。1970年代の米中国交正常化により、中国は資本主義経済のシステムを上手く取り入れることに成功した。そして今、世界の金融センターとしてニューヨーク、ロンドンに続き、シンガポールよりも上を狙うために、香港の機能を吸収しようとしている。台湾にある世界有数の半導体企業も何とかしたいであろう。そしてついには、アリババ集団を筆頭とする中国IT産業への統制がはじまった。

 

社会主義国家では、人民の生活・行動・経済がコントロールされている。

ということは、中国は、この新型コロナウイルスパンデミックの中でも、感染症の拡大を抑えながら、経済を回すことができており、この数年で世界各国と比較して、さらに大きな力を蓄えることになるのかもしれない。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。