新型コロナウイルス感染下で限界がみえてきた民主主義(3)
ついこの前まで、われわれは、日本を、世界でも指折りの幸せな国と信じていた。
なぜなら、平均寿命というきわめて重要な基準で、日本は世界のトップに立っていた(いまでも立っている?)からである。国連の推計によれば、2050年までに、日本の100歳以上人口は100万人を突破する見込みだった。
しかし、今回の新型コロナウイルス感染パンデミックが、われわれの日常を大きく変えた。高齢者は、感染すれば重症化し、死ぬかもしれないという恐怖を覚える毎日を送る。若者たちは、学校に行くこともできず、バイトを解雇され、閉塞感の中で生きている。若者だけではない、これまで外国人観光客を迎え入れて活気づいていた旅行関係、宿泊関係、飲食関係、それに付随した生産関係、そして外国人労働者の力を期待していた農林水産業やサービス業などでは会社そのものが大きな打撃を受けることになった。
このことは、医療保険や年金制度といった社会福祉に危機がせまっていることを示す。
したがって、厚生労働省は、世界最高レベルの平均寿命と保健医療水準を達成してきたことから、何とかこれからも持続可能な公的医療保険制度を少子高齢化ならびに経済情勢の変化に対応しながら続けていく。現在、75歳以上の後期高齢者人口は約1815万人おり、これまで単身で年収383万円以上の所得の人は自己負担3割で、それ以外は1割負担だったが、近い将来一定所得以上は2割負担に引き上げる方針である。また、年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立し、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたって働くような形に改正された。
このように、日本人として、何とか元気で働き収入を得続ける必要がある。
しかし、今回の新型コロナウイルス感染の影響を受ける中、このパンデミック後もはたして思惑どおりに事は進むのであろうか。
実際に周りをみてみると、働き盛りの人々は新型コロナウイルス感染対策による職場環境の変化(デスクワーク、オンライン会議など)あるいは運動量の減少(ジムやスポーツの機会減少)から、さらには自宅での飲食量増加などから、生活習慣病が増えてきているように思う。また高齢者は、加齢による変化に加え、独居や夫婦だけの生活増加により、認知機能障害などの問題も大きくなってきているように思われる。このため、内服薬を定期的にもらいながら通院治療し、介護保険を使いながら各種サービスを受けることが、最近では当たり前のようになっている。
生活習慣病は体中に張り巡らされた血管の異常を引きおこす。血管は、酸素や栄養を運ぶ血液を循環させる体にとってのいわばライフラインであり、その血管が障害され動脈硬化が進む5つの主な原因が、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、そして喫煙である。その結果、脳出血や脳梗塞といった脳卒中、そして狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患がおこる。
脳卒中になると、平均で約3週間の入院が必要となり、その間の治療費は1,066,500円、3割負担で窓口支払い総額は320,000円となる。
虚血性心疾患の場合、入院の平均日数は8.6日だが、治療費は803,200円で、3割負担で241,000円の支払いとなる。
糖尿病では、約1ヵ月近くの入院治療が必要となる。医療費は688,800円、3割負担での支払いは206,600円。
このように、生活習慣病を発症することにより、時間とお金を使うことになる。まあ、これらは生命保険でカバーすることができるかもしれない。
しかしそこで事はおわらない。その後の通院治療が待っている。
脳梗塞では後遺症が問題となる。片麻痺になれば、その後の辛いリハビリテーションの日々が続くが、これは生命保険の対象とはならない。また住宅ローンの免除もない。したがって、多大な経済的負担を背負うことになる。
虚血性心疾患で、バイパス手術、ステント留置術などを行っても、再発する危険性がありる。このため内服治療しながら、生活習慣を変え、心臓のリハビリテーションを続けていかなければならない。
糖尿病では、低血糖や高血糖を起こさないよう注意深いコントロール治療を続けながら、動脈硬化、腎障害、虚血性心疾患、感染症など様々な合併症の進行に対しても生涯にわたる治療が必要になる。
民主主義の中で、日本経済を維持していくためには、医療保険や介護保険をできるだけ使わないように、若い世代への負担が増えないように、高齢になっても元気に社会ではたらきつづけ、平均寿命よりも健康寿命をいかに伸ばしていくかが重要なのだ。
ただ、そうなると、われわれ医療従事者や介護事業従事者の収入減少はもちろん、製薬会社や病院の経営も難しくなりそうだが...。