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院長日記

海外から輸入される医薬品・医療機器に依存する私たち日本のクリニック診療

武本 重毅

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新型コロナウイルス感染が日本でも拡大し、2020年4月はじめて緊急事態宣言が発令されたころ、マスクやアルコール消毒液などのサプライチェーンが滞り、これらの衛生製品が不足して、多くの人がドラッグストアに購入の列をなす事態となりました。今でこそ不足するということはなくなりましたが、発熱外来とワクチン接種で地元地域の新型コロナ対策に携わる私たちのクリニックでは、使用しているマスクや手袋、手指消毒用アルコールなどは中国製です。そしてワクチンはもちろん米国製です。

そこで、日本の臨床医療における海外への依存度、その問題について調べてみました。

医薬品

ニッセイ基礎研究所の報告書によれば、日本の医療用医薬品は原薬の多くを海外に依存しており、今回の新型コロナ禍で以前から問題視されていた医薬品製造が抱えるリスクが顕在化しました。原薬の調達先をみると、韓国、中国、イタリアが多く、この3カ国で購入額の過半を占めています。一般に、後発薬は先発薬よりも薬価が安く、販売数量を伸ばして収益を上げる構造となっていますので、各メーカーは海外から安価な原薬を調達しようとします。その結果、薬価はさらに下がり、海外依存度はますます高まります。そして、いったんこのような状態になると、原薬製造の国内回帰は容易ではありません。

 

医療機器

医療機器の分野では、今や中国の勢いが止まりません。「開発、製造」面で国産化促進を牽引する2つの「計画」があり、1つは「中国製造2025」、1つは「医療装備産業発展計画(2021~2025)」です(日本総研ホームページより)。

2015年に中国国務院は「中国製造2025」を発表しました。ここでは、ロボット、バイオなど10の分野で、国内製造比率を大幅に引き上げ、「製造大国」から「製造強国」への転換を目標にしています。その中で「イメージング設備」「医療用ロボット」「生分解性冠動脈ステントに代表される高価格消耗材」およびウェアラブル機器や遠隔診断機器を含む「モバイル医療」は、重点的に発展すべき重要推進領域として位置付けられました。さらに、3DプリンターやiPS細胞を含む幹細胞関連の技術進展も要求しています。
2021年2月には中国工信部が「医療装備産業発展計画(2021~2025)」(パブリックコメント版)を発表し、2025年までの医療機器の技術と産業発展に関する目標を設定しました。本計画では、重点的に推進する医療機器分野として「診断検査装置」「治療機器」「ガーディアンシップとライフサポート機器」「リハビリテーション」「埋め込み型機器」等の7つの分野が設定され、それぞれにおいて重点的に研究開発、技術進展すべき医療機器の品目が明確に示されました。さらに、本計画は、中国医療機器のブランド力強化を推進しながら、2025年までに、6~8社の中国医療機器メーカーが世界の医療機器メーカートップ50にランキングされることを目標として掲げています。

 

ワクチン

新型コロナウイルスワクチンの製造に関し、国境なき医師団(MSF)は各国政府に対し、新型コロナワクチンのライセンス契約や、臨床試験の費用やデータに関する透明性の確保を、製薬企業に速やかに要求するべきだと訴えました。最有力とされる6つのワクチン候補の研究開発、臨床試験、製造には、計120億米ドル(約1兆2618億円)以上の資金が投じられてきました。アストラゼネカ/オックスフォード大学(17億米ドル以上、約1787億5500万円以上)、ジョンソン・エンド・ジョンソン/バイオロジカル・イー(BiologicalE)(15億米ドル、約1577億2500万円)、ファイザー/ビオンテック(25億米ドル、約2628億7500万円)、グラクソ・スミスクライン/サノフィパスツール(21億米ドル、約2208億1500万円)、ノババックス/インドのセラム・インスティチュート(約20億米ドル、約2103億円)、モデルナ/ロンザ(24.8億米ドル、約2607億7200万円)です。当然のことながら、それぞれの製薬会社はその費用を回収する必要があります。

日本では主にファイザー社製ワクチンとモデルナ社製ワクチンを使用していますが、その購入価格に関しての情報は明らかにされていないようです。さらに不確定な要素の多い、ワクチンの輸送費用、維持費用、接種費用についても公費で賄われています(このため直接的には得をしている感覚ですが)。

日本政府はこれからも海外の製薬会社から新型コロナウイルスのワクチンを追加で購入するための費用などとして8415億円を充てるほか、治療のための中和抗体薬を確保するための費用などとして2373億円を充てることにしています。そしてワクチンについて、政府はファイザーとの間で、1億2000万回分の追加供給を受けることを前提に協議を進めています。

しかしながら、オミクロン株など変異株による影響を考慮すると、今後は変異が起こった後のウイルスに対する免疫応答を誘導できるような効果的なワクチンや治療薬が必要となるでしょう。

 

少子高齢化が進み、また日本国内の医薬品や医療機器だけでは臨床医療をまかなうことができなくなった今、ますます日本医療の海外への依存度は高くなっています。そして新型コロナウイルス感染禍に加え、ウクライナ危機そしてロシア経済締め付けによる世界的経済危機へと進む中、日本の医療はどのような状況に陥るのでしょうか。ついこの前まで描いていた2025年の高齢者介護医療や生活習慣病対策、そしてがん等に対する高度医療に関するビジョンを、また一から考え直さなければならないようです。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。