Director's blog
院長日記

ドラッカー著「断絶の時代」から①:経済のグローバル化

武本 重毅

ここ数年続くパンデミック物価高騰世界紛争という世界的歴史的な潮流の中を生き抜くためのヒントを探してみました。

20世紀には単に生きるために働いていた人々が、豊かな生活のために働くようになりました。

その結果それまでの経済学が考えてもいなかった新しいニーズが発生しました。

それが情報教育医療、そして移動の自由でした。

世界中で小さな贅沢へのニーズが生まれました。

それは一人ひとりの人間にとって

技術選択自由の象徴でした。

それがソフトドリンク、口紅、映画雑誌などでした。

中産階級にとっての電化製品でした。

豊かな人たちにとっての学位でした。

それらのものは、まさに必要不可欠のものではないが故に、心理的な必需品となりました。

それらのニーズの底にあったものは

もはや貧しさが必然ではなく

誰でも豊かになれるとの考えでした。

経済を規定するものは需要です。

その経済行動の共通性の背後にあるものが情報化でした。

全世界が欲求反応行動に関して1つの経済圏となりました。

今日では、世界中の人間が互いの生活を知っています。

かつての村民が隣人を知っていたように、世界中の人たちが世界中の人たちを知ることができます。

電子メディアは物を伝えます。

経済を伝えます。

グローバルなショッピングセンターを生み出します。

しかも、それは新しいコミュニティーを生み出します。

このグローバル経済

18世紀に生まれ、1900年には世界を覆うに至った国際経済とは異質のものです。

国際経済には

共通のニーズや需要はなく

共通の情報もありませんでした。

国際経済の下では

それぞれの国が、自らの余剰となった産物を他の国の産物と交換するだけでした。

しかも、国際経済それ自体が、それが各国の経済とは別個のものでした。

しかし今日では、各国間の違いは民俗学上の関心事となり得るに過ぎません。

各国の国民が持っているもの、欲しているものに違いはなくなりました。

どれだけ多くを持っているか、どれだけ多くを買えるかに違いがあるだけです。

貧富の差はあっても、世界中が同一の経済的コミュニティーに属しています。

今日のグローバル経済は政治とは無縁です。

それどころか、それは政治的な分裂が進む中で形成されました。

今日のグローバル経済消費者が作り出しました。

いち早くグローバル経済に生きるようになったのは消費者の方でした。

政府はもちろん生産者さえ消費者の後を追いました。

したがって、今日のグローバル経済ニーズ側においてのみ実現されています。

グローバル経済の発展は通貨と金融の増大を要求します。

という事は、基軸通貨つまり米ドルの供給が、常に増大しなければならないということになります。

グローバル経済が発展すれば、アメリカの国際収支がそれだけ赤字にならなければなりません。

さもなければ、流動性危機、すなわち貿易のための通貨と金融の不足が世界経済を窒息させます。

そのような事は、いつまでも続けられません。やがては機能しなくなります。

第一に、いかなる国といえども、他の国の通貨を受け取り続ける事はありません。

遅かれ早かれ、基軸通貨国が財政を立て直し、国際収支を改善すべきことを要求します。

だがその事は、グローバル経済への通貨供給の削減を意味します。

すなわちグローバル経済が発展すれば、世界的なデフレとなります。

第二に、基軸通貨国自体にも耐え難いことが起こります。

基軸通貨制は、他の国がその通貨を受け取ってくれる間しか機能しません。

彼らがいつでも自国通貨に交換できると考えている間しか機能しません。

したがって、グローバル経済が順調であれば、基軸通貨国自身にとっての通貨危機の危険が生じます。

以上のドラッカー氏による半世紀以上も前に書かれた内容から

世界的インフレへと向かう今、グローバル経済が新しい段階に入ったと感じる今日この頃です。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。