老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その4:長寿遺伝子とは
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「長寿遺伝子」の存在とその役割
色々な動物の平均寿命と最大寿命をともに延ばす
「長寿遺伝子」の存在が示されました。
しかも、長寿遺伝子は寿命を長くするだけではありません。
より健康な生涯を送ることができるようにします。
つまり「元気遺伝子」といってもよいでしょう。
これらの遺伝子は体内で監視ネットワークをつくっています。
タンパク質や化学物質を血液中に放出することで
細胞間や臓器間で情報を伝達しあっているのです。
こうした長寿遺伝子が現に存在することも
その多くが何をしているかも
今では明らかになっています。
つまり
それらを深く探って利用できる段階になったということになります。
どんな用途が可能かを想像し、様々な方法で私たちのために役立てる。
そのための道がついに開けました。
筆者が主な研究対象にしている長寿遺伝子は
「サーチュイン(sirtuin)」と呼ばれています。
哺乳類では7種類のサーチュイン遺伝子が見つかっています。
サーチュイン遺伝子から生まれるタンパク質は酵素です。
「脱アセチル化酵素」と呼ばれ
前回触れたヒストンなどのタンパク質からアセチル基を外すことで
DNAのヒストンへの巻きつきが強まり
DNAの情報が読み取れなくなって
タンパク質を合成する作業が行われません。
逆にアセチル化するとDNAの巻きつきが緩み
遺伝子情報が読めるようになり
タンパク質の合成が開始されます。
つまりこの仕組みを通して
必要に応じて遺伝子のスイッチをオフにしたりオンにしたりすることができるわけです。
このようにサーチュインは
エピジェネティクス的な調節機能において
きわめて重要な役割を担っています。
細胞を制御するシステムの最上流に位置して
私たちの生殖とDNA修復を調節しているのです。
サーチュインは
私たちの健康や体力、生存そのものを司るように進化してきました。
また進化の過程で
NAD+(ニコチンアミドアデニンジクレオチド)という分子を用いて
仕事をするようになりました。
そして
加齢とともにNDA+が失われ
サーチュインの働きが衰えることが
老齢に特有の病気を発症する大きな理由のひとつと考えられています。
サーチュインタンパクは
ストレスにさらされたときに
生殖ではなく修復を選ぶことで
私達の体に「じっとしている」よう命じます。
また
老化に伴う主だった疾患(糖尿病、心臓病、アルスハイマー病、骨粗鬆症、がん)から
私たちを守っています。
アテローム性動脈硬化症、代謝異常、潰瘍性大腸炎、関節炎、喘息へとつながる
慢性炎症の亢進を鎮め
細胞死を防ぎ
細胞の発電所ともいうべきミトコンドリアの機能を高める働きをもちます。
さらにマウスを使った研究からは
サーチュイン酵素を活性化することで
DNAの修復が進み
記憶力が向上し
運動持久力が高まり
太りにくくなるという結果が得られています。
とんでもない与太話をしているのではありません。
今挙げたすべては
同じ分野の科学者たちの査読を経たうえで
「ネイチャー」「セル」「サイエンス」といった一流科学誌に掲載された研究結果なのです。
そのうえ、こうした効果の根底にあるのはかなり単純なプログラムです。
したがって、サーチュインは
他の多くの長寿遺伝子と比べて
人為的に働きかけやすいという特徴をもちます。
どうやらサーチュインは
生命という壮大なピタゴラ装置のなかで最初に倒れるドミノであるようなのです。
生命は環境が厳しいときにも
自らの遺伝物質を守り
数十億年にわたって途切れることなく繁栄を続けてきました。
その仕組みを理解するうえで、鍵を握るのが
サーチュインなのです。