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院長日記

老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その9: 「長寿遺伝子」を今すぐ働かせる食事療法

武本 重毅

確かに、本書で取り上げる治療法や、寿命を延ばすテクノロジーの中には

すでに利用できるものもあります。

数年先に実用化されるものもあるし、10年ほど先に実現しそうなものとなればさらに数は多くなります。

 

しかし、開発雄の技術を待たなくてもできることがあります。

誰であろうと

どこに住んでいようと

何歳であろうと

どれだけの収入があろうと

関係はありません。

自分の長寿遺伝子を今すぐにでも働かせる方法があるのです。

 

「最適な」食事は何かという点では

世界を代表する栄養学者のあいだでも見解は大きく分かれています。

それはたぶん、そもそも最適な食事というものが存在しないからかもしれません。

つまり、誰一人として同じ人間はいないのだから

食事が多少異なっていても(ときにはずいぶん違っていても)少しもおかしくはないのです。

 

寿命と健康寿命を最大限に延ばすのは、スイッチをひねるようなわけにはいきません。

それは、この先数十年で登場してくる医薬品やテクノロジーに、いち早く手の届く人であっても同じです。

選択にはかならず正しいものと間違ったものがあります。

まずは、体内に何を摂り込めばいいかです。

そして何を摂り込まないかも。

 

まず間違いなく確実な方法は、「食事の量や回数を減らせ」です。

長く健康を保ち、寿命を最大限に延ばしたいなら

それが今すぐ実行できて、しかも確実な方法です。

「食べることにおいても飲むことにおいても、自分の欲求を完全には満たさないことを習慣づける」

「つねに十分な余力を残して食事の席を立つようにする」

 

1978年には香川靖雄が

当時100歳以上の住民が多いことで知られた沖縄の研究で、ひとつの発見をしました。

沖縄の児童の摂取する総カロリー量が本土の児童の2/3に満たない

成人の総カロリー量も本土の成人より約20%低いという状況でした。

その結果

当時の沖縄の人々は長生きするだけでなく

健康寿命もまた長く

しかも、脳血管系疾患、悪性腫瘍、心臓病が非常に少なかったのです。

 

1993年にはロイ・ウォルフォード(カリフォルニア大学)により新たな証拠がもたらされました。

カロリー制限により

体重が減り(15~20%)

血圧が下がり(25%)

血糖値が低下し(21%)

コレステロール値が減少(30%)したのです。

 

それでも、多くの人は二の足を踏みます。

自宅の冷蔵庫をあけないとか、職場で間食をしないといったことには、強い意志が求められます。

老化研究の分野にはこのような金言があります

「カロリー制限で長く生きられるかどうかはさておき、長生きした気分にさせてくれるのは間違いない」

それだけ苦労が大きいということです。

 

だが、結論をいえばカロリー制限にこだわる必要はありません。

わざわざつらく苦しい思いをしなくても

カロリー制限をしたのと同じメリットは別の方法でもかなり手に入るからです。

そのことは、研究で徐々に立証されつつあります。

いや、むしろそちらのほうがより効果が高いかもしれません。

 

食物が足りないときの遺伝子の反応を確実に再現することができれば

なにものべつまくなしに腹をすかせていなくてもいいわけです。

どのみち、いったんストレスに慣れてしまったら、それはもうストレスではなくなります。

 

そこで、新しい画期的な健康増進法として注目されているのが「間欠的断食」です。

これは、食事の量は普段と変えないものの、食事を抜く期間を周期的に差し挟むというものです。

間欠的な「擬似的断食」を続けると、いくつもの健康効果が現れます。

わずか3ヶ月で体重が落ち、体脂肪が減り、血圧も減少したのです。

だが、何より重要なのは、IGF-1(インスリン様成長因子1)の濃度の低下かもしれません。

IGF-1は主に肝臓でつくられるホルモンです。

IGF-1の遺伝子やIGF-1受容体の遺伝子に起きる変異は

死亡率や罹患率の減少と関係しています。

また、この遺伝子変異は

100歳以上が多い家系の女性によくみられることがわかっています。

 

つまり、良い遺伝子を引き当てた人がいるということなのですが

そうでない人は、少しばかりプラスアルファの努力をしないといけません。

だが、ありがたいことにエピゲノムは変えることができます。

デジタル情報ではなくアナログなので、影響を受けやすいのです。

だから、生活の仕方を変えることでコントロールできるのです。

 

「間欠的断食」のかたちをとり

絶えず空腹でいるわけではなく

一定の時間だけ身体を飢えさせることで

サバイバル回路を始動させるのです。

 

加えて

アミノ酸は摂り過ぎないようにしましょう。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。