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院長日記

老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その10 :「長寿遺伝子」を今すぐ働かせる運動療法

武本 重毅

元気に暮らすには運動がいいというのは

何世紀も前から叫ばれてきたことです。

そこには理由があります。

ただしその理由は

たいていの人が(さらには多くの医師が)思っているものとは違っています。

 

およそ400年前

イギリスの医師ウィリアム・ハーヴィーは

人体に複雑な管が網目のように張り巡らされていて

そこを血液が通って全身を循環していることを発見しました。

以来、医師たちは(私も含めて)

運動を行なえば血行がよくなり

かすが溜まらないように押し流してくれるから健康になると考えてきました。

 

だが、運動の効能はそこではありません。

 

もちろん

運動すれば血行は改善します。

肺や心臓が健康になり、筋肉が増強されます。

しかし何より重要なのは

なぜそうなるのか

です。

 

そもそも運動とは

体にストレスを与えることにほかありません。

運動するとNADの濃度が上昇し

それが今度はサバイバルネットワークを作動させます。

そのおかげでエネルギーの産生量が上り

筋肉は酸素を運ぶ毛細血管をさらに増やすようになります。

AMPK、mTOR、サーチュインといった長寿関連の物質

カロリー摂取量にかかわらず

運動によって正しい方向に調節されます。

そしてテロメアを長くするのです。

 

とはいえ、気楽にウォーキングするのと

それなりの速さで走るのとで

違いがまったくないわけではありません。

長寿遺伝子の力を余すところなく発揮させるには

強度は間違いなく大事になります。

健康を増進する遺伝子を一番多く活性化したのは

高強度インターバルトレーニング(HIIT)でした。

これを行なうと

心拍数や呼吸数が著しく上昇し

これは低酸素応答と呼ばれるもので

この状態は体に適度なストレスを与えるのにうってつけなのです。

永続的な害を及ぼすことなく

老化に対する体の防御反応を活性化してくれます。

 

なぜ運動が体にいいかといえば

運動によって数々の長寿遺伝子がプラスの方向に調節されるからです。

そのおかげで

テロメアが伸びる

細胞に酸素を運ぶ新しい微細血管ができる

ミトコンドリアの活動が高まって化学エネルギーが増える

といった効果が現れます。

 

こうした機能が加齢とともに減少することは

以前から知られていました。

新しくわかったのは

運動によるストレスの影響を最も強く受ける遺伝子が

それらの機能を若い頃の水準に引き戻してくれるということです。

 

簡単にいえば

運動が遺伝子のスイッチを入れ

私たちを細胞レベルで若返らせてくれるのです。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。