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院長日記

老化は疾病-「老いなき世界(LIFE SPAN)」その14 :メトホルミンの効能

武本 重毅

ガレガソウはきれいな花です。

ヨーロッパでは何世紀ものあいだ薬草として使われてきました。

ガレガソウになぜ薬効があるかといえば

グアニジンという化学物質が豊富なためです。

グアニジンは人間の尿にも少量が含まれ

正常なタンパク質代謝がなされているかどうかの目安になります。

1920年代には

糖尿病患者の血糖値を下げるためにグアニジンが処方され始めました。

最近の研究からは

血糖値が高いと

「エピゲノムの老化時間」が速く進む恐れのあることが示されています。

現在は椅子に座りっぱなしの生活習慣が増え

世界のどのスーパーマーケットにも糖や炭水化物が溢れています。

そのせいで

高血糖は年間380万人もの早すぎる死を招いています。

糖尿病による死は

速やかでもなければ慈悲深くもありません。

失明

腎不全

脳卒中

足の潰瘍や壊疽

手足の切断といった

恐ろしいものをたくさん連れてやってきます。

1950年代の半ば

薬学者のジャン・アロンと医師のジャン・ステルンは

この病気について研究しました。

そして

彼がガレガソウの主成分グアニジンの誘導体を使うことで

インスリンの効かない2型糖尿病と闘えないかと考えました。

その誘導体はジメチル・ビグアナイドと呼ばれます。

今では一般に「メトホルミン」と呼ばれるこの薬は

以来、世界で最も広く使われ

最も効果の高い医薬品の1つとなっています。

それが健康長寿とどう関係するのか。

今から数年前

研究者が不思議な現象に気づきました。

メトホルミンを服用している患者は

そうでない人より際立って健康状態が良いのです。

しかもそれは

糖尿病が改善していることとは無関係のようでした。

ラパマイシンと同様

メトホルミンを摂取した場合も

カロリー制限に似た効果が現れます。

ただし

ラパマイシンのようにTORを阻害するのではなく

ミトコンドリアの代謝反応を制限する方向に働きます。

ミトコンドリアは

「細胞の発電所」ともいわれ

ブドウ糖などをエネルギーに変換する仕事をしていますが

メトホルミンには

このプロセスを遅らせる作用があるのです。

すると

AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)が活性化します。

AMPKは酵素の一種で

エネルギー量が低下したときに

ミトコンドリアの機能を回復させる機能を持ちます。

メトホルミンはサーチュインの中の1つSIRT1の活性も高めます。

他にも

がん細胞の代謝を抑えたり

ミトコンドリアの数を増やしたり

折りたたみ不全のタンパク質を除去したり

する効果が明らかになっています。

ある研究では

68歳から81歳までのメトホルミン服用者の間で

認知症

新血管系疾患

がん

虚弱

うつ病

になる確率が

メトホルミンによって低減されることが確認されました。

メトホルミンのがん予防効果については

予防効果の特に高いのが

肺がん

結腸・直腸がん

膵臓がん

乳がんです。

これらの意味するところは実に大きいです。

まずいコーヒーを1杯飲むより安い値段で

たった1つの安全な薬が

それだけ大勢の人の暮らしを著しく改善させたのです。

直接がんを防ぐ以外にも

間接的な予防効果があります。

何かというと

90歳を超えれば

がんで死亡するリスクが急激に下がるのです。

もちろん、それでも結局は他の病気でなくなるわけですが

がんに伴う大変な苦痛とコストが大幅に軽減されます。

メトホルミンの素晴らしいところは

いくつもの病気に影響を与えることです。

AMPK を活性化させる力により

NADの濃度を上昇させ

サーチュインのような老化への防御機構全体を始動させます。

 

病気の上流でサバイバル回路を働かせ

エピゲノムの情報が失われるのを顕著に遅らせ

代謝を抑えることで

あらゆる器官が若く健康でいられるようにします。

 

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。