抜歯したら菌血症か感染性心内膜炎、そして感染性動脈瘤に注意を
昨日の私たちの外来を
不明熱(つまり原因がわからない発熱)の84歳女性が受診しました。
今年になり発熱したため熊本市を代表する総合病院に救急搬送され
原因がわからなかったようでした。
上水前寺の高齢者施設に入居していて
介護タクシーで来院しましたが
意識レベルが低下しており、朝からけいれん発作も出現していたようなのです。
とても私たちのような小さなクリニックで対応できる状態ではありません。
聞けば
昨年末に
歯根膿瘍から歯科処置を受け、3本抜歯されていました。
わたしは
直ぐに「感染性心内膜炎」あるいは「感染性脳動脈瘤」を疑い
血液培養、心エコー、頭部画像診断などが至急必要と考え
救急搬送の手続きに入りました。
しかし一旦わたしが診察したので
救急車を呼んでも
わたしが転院先を見つけなければ搬送できないという壁にぶちあたりました。
昨日の院長日記でも書いたように
今や新型コロナウイルス感染第8波の影響で
発熱患者はどこも受けてくれません。
実際に
熊本で有数の救急総合病院に電話をかけても、かけても
「満床ですから」と断られ
1月に受診歴のある総合病院からも断られ
到着した救急隊からの「酸素飽和度が88%低下してきました。酸素投与開始してよいですか」と問いに
指示を出しながら
やっとのこと某病院に
「そのように幾つもの病院から断られているのでは仕方ないですね。一旦は引き受けましょう」と
受診させていただき、緊急入院までさせていただきました。
CRPという炎症の度合を示す検査値は著明に上昇しており
しかし
体幹画像診断や血液・尿検査では熱源はっきりせず
「菌血症疑い」ということでした。
実は
抜歯などの歯科治療後に
血管内(血流)に細菌感染がおこるのは今や周知の事実なのです。
高齢者で歯根膿瘍までおこしていれば
口腔内の細菌の増殖は相当のものだったでしょう。
そこに抜歯などの処置で
口腔内と血管内との交通ができてしまえば
細菌が血流に乗って身体中を回ることになります。
抜歯などの歯科処置により生じる一過性の菌血症が
感染性心内膜炎発症の原因となることは古くから指摘されており
米国心臓協会などから抗菌薬予防投与ガイドラインが提示されています。
そして
わたし自身の経験から
抜歯後の不明熱で菌血症がみられたら
感染性動脈瘤を考える必要があります。
長期にわたる抗生剤投与が必要になります。
それを怠ると
身体のどこかの動脈瘤が感染により破壊され
最悪の場合には
動脈瘤破裂という形で死に至ることもありますので
注意が必要です。
参考文献:感染性動脈瘤の成因