人生100年時代、私たちが目指す120年その⑥:睡眠呼吸障害
最近の院長日記でご紹介したように
私たちが健康寿命120歳を目指して100歳あたりで克服しなければならないのが心不全、その原因のひとつが不整脈でした。
そして、その不整脈の原因として注目しているのが
睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing: SDB)です。
最近のことですが
私たちのクリニックで高血圧・糖尿病などメタボリック症候群と
不眠症の治療をしていた患者さんが
大好きな釣りに出かけていた先で夜中に発作をおこし、近くの救急病院に入院しました。
その総合病院は、わたしの父が内科医として勤務し
わたしが幼(小)期を過ごした懐かしい所です。
そして今回の入院で明らかになったのが
患者さんの睡眠呼吸障害(重症)です。
退院後わたしたちのクリニックで、早速、CPAP(continuous positive airway pressure: 持続的気道陽圧)治療をはじめました。
わが国では、1998年より保険収載され、日中の眠気、倦怠感などの自覚症状を認め、かつPSG(polysomnography: 睡眠ポリグラフ)で AHI(apnea hypopnea index: 無呼吸低呼吸指数)20以上
簡易モニターでAHI40以上の場合にCPAP治療の適応となります。
睡眠呼吸障害は
睡眠障害のなかでもっとも頻度が高い病態の一つであり
わが国でも居眠り運転に起因する交通事故に関連し、メディアなどでたびたび取り上げられ、社会的な関心も高い疾患です。
そこで2023年改訂版循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドラインよりご紹介します。
自覚症状の有無を問わずAHI≧5のものをSDBと定義します。
同様に、閉塞タイプ呼吸イベントが優位のものを「閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea: OSA)」
中枢タイプ呼吸イベントが優位のものを「中枢性睡眠時無呼吸(central sleepapnea: CSA)」とし
後者でチェーン・ストークス呼吸パターンを伴うものを「Cheyne-Stokes 呼吸を伴う中枢性睡眠時無呼吸(central sleep apnea with Cheyne-Stokesrespiration: CSA-CSR)」と表記します。
一般人口におけるSDBの有病率については数多くの報告がありますが、コホート研究での適性という観点から簡易モニターを用いた研究が多いため、OSAとCSAを明確に区別できていない報告が多いようです。
しかし一般人口においては、CSAの有病率はOSAに比べてきわめて少ないと考えられるため、SDB有病率≒OSA有病率と理解されます。
1980年代後半からの20~30年のあいだに
肥満患者の増加
検査機器の精度向上
:人口の高齢化等
に伴い経時的に有病率は増加しています。
循環器疾患とSDB(OSA)
SDB(OSA)は、さまざまな循環器疾患に合併し
循環器疾患の悪化に関与するだけでなく
循環器疾患の発症そのものに関与することも示唆され
循環器領域においても重要なリスク因子の一つと考えられています。
すなわち双方の合併頻度が高いだけでなく
SDB(OSA)により循環器疾患の病態が修飾されています。
不整脈・突然死
SDB(AHI≧30)の患者における
心房細動の有病率は4.8%
非持続性心室頻拍5.3%でした。
さらに年齢、性別、BMI、冠動脈疾患で調整すると
SDB患者(AHI≧30)における不整脈合併リスクは
心房細動(オッズ比: 4.0)
非持続性心室頻拍(3.4)
心室性期外収縮(1.7)で有意に高いようです。
一方、心房細動の患者におけるSDB有病率も
74%(OSA[43%]、CSR/CSA[31%]、AHI>5)
あるいは81.4%(AHI≧5)と高くなります。
夜間不整脈はOSA患者の50%近くに認められます。
睡眠中に比較的よく認められるのは
心房細動
非持続性心室頻拍
洞停止
2度房室ブロック
心室性期外収縮などです。
PSG(polysomnography: 睡眠ポリグラフ)中の心電図解析では
重症SDB(AHI≧30)は、対照群(AHI<5)に比べて
夜間の不整脈のリスクを2~4倍高めることがわかっています。
PSG後に心原性突然死をきたした112人について、突然死を起こした各時間帯に分けて検討した報告では
OSA(AHI≧5)症例の46%が深夜0時~午前6時の時間帯に突然死を起こしているのに対して
OSAのない症例で同時間に突然死しているのは21%であり
OSAの存在は、睡眠時間中に心原性突然死をきたすリスクとなります(相対リスク: 2.6 倍)。
低酸素血症
OSAでは、一晩中、間欠的低酸素・高炭酸ガス状態を繰り返しています。
低酸素状態は、交感神経活動を亢進させ、心拍数や血圧が上昇しますが、高炭酸ガス状態もあるとさらに亢進することが示されています。
夜間のOSAに伴う交感神経活動の急激な亢進は末梢血管の収縮による高血圧状態をきたし、胸腔内圧の陰圧によるtransmural pressureの上昇と合わせて、さらに心臓の後負荷を増大させます。
一方、低酸素状態は左室の拡張障害を招く可能性が示唆されており、正常心でも心機能全体として悪影響を受ける可能性があります。
さらに、低酸素状態が肺動脈収縮を招き肺動脈圧が上昇することは古くから知られており、右心機能を悪化させる原因となります。
OSAでは血管内皮機能が低下していることも示されており、心臓への負荷を一層増大させ、動脈硬化を進展させる原因と考えられています。
発作をおこして緊急入院した患者さんは喫煙をやめようとしません。
実際、OSAに加えて、喫煙している患者さんの場合は
慢性的な低酸素状態が続いているのでしょう。
また、ごく最近私たちのクリニックを受診した患者さんも
喫煙を続けており、重症の不整脈が見つかりました。
強い倦怠感で辛そうです。
禁煙こそが最も近道の治療法なのかもしれません。