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院長日記

上工治未病 中工治已病

武本 重毅

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名医は未病のうちに治すが、腕の劣る医者は病になってから治す。

中国に古くからある言葉で、工とは医者のことです。昨日ウェブに公開した「聖人不治已病治未病」(黄帝内経)と同様、未病という段階で治すことが本来の医療であると認識されていることがわかります。
(青島大明、病を治す哲学 伝説的医書『黄帝内経』の驚異)

 

 クリニックや救急外来を受診する患者の中には、夜間の嘔吐や下痢に驚いてやってくる人がいる。その多くは、そのまま安静にして様子をみていれば軽快する。中にはこの嘔吐や下痢を止める薬をくれという人もいるが、実はこれらは自分自身の身体を体外からの有害物質や感染症から守るための防御反応なのである。

 私もごくたまに飲酒して、特に安い赤ワインを飲みすぎると夜中に胃酸が逆流してくる。それで目覚めトイレへ行き嘔吐してすっきりする。長年つきあってみてわかったのであるが、私の身体は、身体に良いワインと合わないワインを胃で判断してくれている。だからそれから先、腸の方に進むことはなく、嘔吐してしまえば翌朝は気分よく起床し仕事を始めることができる。赤ワインが心筋梗塞の予防など動脈硬化による虚血性疾患に対して効果を示すことは既によく知られている。この最初の論文を読んだときには本当に驚いた。それはワインという世界中で当たり前のように飲まれているお酒の医学的な効能が、世界的に権威のある雑誌の医学論文として発表されたから。そして、それ以来赤ワインをできるだけ飲むようにしている。その理由は、私の父親が禁酒してから虚血性心疾患となりステント留置手術を何度も受け、母親は脳卒中で倒れたからである。私には動脈硬化症のリスクがある。クリニックを受診する患者から既往歴や家族暦を根掘り葉掘り聞き出すのも、実はその患者を未病のうちに治そうという考えに基づいている。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。