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院長日記

「Lagom」という新しい生命の考え方

武本 重毅

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― 健康とは「ちょうど良い揺らぎ」の中にある ―

スウェーデンには、Lagom(ラーゴム)という美しい言葉があります。

日本語では、

「多すぎず、少なすぎず、ちょうど良い」

と訳されることが多い言葉です。

例えば、

  • 食べ過ぎない
  • 働き過ぎない
  • 頑張り過ぎない
  • 我慢し過ぎない

そんな穏やかな生き方を表す北欧の価値観として知られています。

しかし近年、この「Lagom」という考え方が、生命科学や医学の世界でも注目され始めています。


生物は「ちょうど良い範囲」で最もよく働く

私たちはつい、

「多いほど良い」

と思いがちです。

しかし、生物はそうではありません。

例えば、

  • 酸素が少なすぎれば生きられません。
  • しかし、多すぎても活性酸素が増え、細胞を傷つけます。

血糖も同じです。

低すぎれば低血糖になり、

高すぎれば糖尿病になります。

血圧も、

体温も、

ビタミンも、

ホルモンも、

すべて

「ちょうど良い範囲」

があります。

医学では、このような現象を「Goldilocks(ゴルディロックス)原理」あるいは「Lagom原理」として説明する研究も報告されています。


健康とは「固定された数字」ではない

さらに興味深いのは、

近年の生命科学では、

健康とは

「一つの理想的な値」

ではなく、

ある程度の”揺らぎ”を持った状態

であると考えられるようになってきたことです。

心拍も、

血圧も、

免疫も、

ホルモンも、

睡眠も、

すべて常に変化しています。

つまり、

生命とは

止まっているものではなく、

揺らぎながらバランスを保っている存在なのです。


Lagomは「ちょうど良い揺らぎ」

スウェーデンの研究者 Mauno Vihinen は、

生命は本来、

さまざまな”揺らぎ(Poikilosis)”を持っていると考えています。

そして、

その揺らぎが

適切な範囲

に保たれている状態を

Lagom

と定義しました。

つまり、

健康とは、

数字がまったく変わらないことではありません。

適度な変化を保ちながら、

必要なときには元の状態へ戻ることのできる柔軟性なのです。


病気とは「Lagomから外れた状態」

この考え方では、

病気とは

単に異常な数値が出た状態ではありません。

本来保たれていた

「ちょうど良い揺らぎ」

から外れ、

その影響が全身へ広がってしまった状態です。

例えば、

慢性炎症

ミトコンドリア機能低下

エネルギー不足

免疫の乱れ

睡眠障害

さらに慢性炎症

という悪循環も、

一つの「Lagomを失った状態」と考えることができます。


私が考える「回復力」とLagom

私はこれまで、

老化とは時間ではなく、回復力の低下である

という考え方を提唱してきました。

今回、Lagomという概念に触れ、

その考え方との深い共通点を感じました。

私が考える回復力とは、

傷つかないことではありません。

疲れないことでもありません。

多少のストレスや負荷を受けても、

再び自分本来のバランスへ戻る力

です。

言い換えれば、

「Lagomへ戻る力」

とも表現できるのかもしれません。


ミトコンドリアも「ちょうど良く」働くことが大切

ミトコンドリアは、

細胞のエネルギーをつくる重要な器官です。

しかし、

常に最大出力で働けばよいわけではありません。

必要な時には十分なエネルギーを生み出し、

休む時にはしっかり休み、

傷つけば修復し、

古くなれば新しく入れ替わる。

この絶妙な調節こそが、

健康なミトコンドリアの姿です。

つまり、

ミトコンドリアにも

Lagom

があるのです。


これからの医療は「Lagomを取り戻す医療」へ

私は、

これからの医療は、

病気だけを見る医療から、

生命が本来持つバランスを支える医療

へ進化していくと考えています。

睡眠、

運動、

栄養、

ストレス管理、

そしてミトコンドリア機能を支えること。

これらはすべて、

生命を「ちょうど良い状態(Lagom)」へ導き、

本来備わっている回復力を発揮しやすくするための取り組みです。

健康とは、

完璧を目指すことではありません。

生命に備わった自然なリズムを尊重し、

「ちょうど良い揺らぎ」の中で生きること。

私は、これこそが未来の「回復医療(Mitochondrial Recovery Medicine)」の大切な考え方の一つになると考えています。

 

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。