Director's blog
院長日記

2013年3月に書いた原稿:予防の重要性

武本 重毅

予防の重要性
2013年3月17日
武本重毅

結核
 日本では戦前・戦後の時代に大きな猛威をふるった。この感染症のために多くの労働力を失い、戦闘員としても...(もし結核菌感染が敵対国により仕組まれた戦略だったら?)
 そして今、HIV感染者の中で、AIDS治療により長期生存できるようになった時代に大きな脅威となっている。

水俣病
 熊本チッソ工場から排出された有機水銀により水俣病を発症し、特に妊婦の水銀中毒による胎児性水俣病にかかった患者は生涯にわたり大きなハンディキャップを背負って生きることになる。患者本人だけではない、その家族、そして町、市、県、さらには治療や生活を補償している国にも経済的な面だけでなく労働力としても損失であった。
 そして今、急速な発展を遂げているブラジルなど発展途上国で、金などの鉱物資源採掘に伴い、その河川下流地域での水銀中毒が問題となっている。

HTLV/ATL
 このヒトレトロウイルス感染症が日本で見つかり報告されたのが1976年のことである。日本では経済発展に支えられた医学の進歩と寿命延長が実現した時代である。そのような中、このウイルスであるHTLV-1は日本、そしてカリブ海地域(キューバは?)の患者から分離された。その後、当時3番目のヒトレトロウイルスと名付けられていたHIV-1がAIDSのゲイ患者から分離され、世界に広がっていった。
 これらは本当に自然に生まれた新しいウイルスであったのだろうか。
 欧米人が特に予防対策をとる必要のないウイルスが他にもあるだろうか?
 マラリアやデンク熱など熱帯地方にいる蚊が媒介するような感染症ならば別であるが、人から人へ感染する血液媒介感染症で、何故HTLV-1だけは特定の地域に限って感染者の分布が認められるのであろうか。

HIV/AIDS
 その一方で、HIV/AIDSは日本以外の国々で猛威を振るっている。近隣ではロシアや中国といった大国での感染者急増がみられる。
 では、何故日本では感染者が少ないのか。その理由の一つが前述したHTLV/ATLから学んだ予防と対策による。日本では、その感染症対策として公衆衛生が大きな役割を担ってきた。そして戦後、売血による肝炎ウイルス感染が大きな問題となると、安全な輸血体制構築のために日本赤十字社を中心として取り組みが始まり、輸血による感染ゼロを目指した努力が成されてきた。HTLV-1感染についても1980年代の研究成果を取り入れ、1986年には全国一斉に献血者のスクリーニングが開始され、大きな成果を挙げた。肝炎ウイルスは1990年以降であるから、このHTLV/ATL研究が日本の輸血体制に与えた影響がどれほど大きいのもかがわかる。このようにHIV感染にも威力を発揮している。

感染予防とワクチン開発の重要性
 世界的な経済破綻が、地震を起こす活断層のように、その活動を活発化している現在、大きな資本による治療薬開発が進められているが、グローバル化した世界が今こそ一致団結して取り組まなければならないのは、国を超えた共同体としての感染予防と、有効なワクチン開発ならびに早急な接種実施である。
 実際にタイ国コンケンの国立病院を訪れてみれば、病棟は50年前の熊本大学附属病院を思い出させるような状態で、医師達も若く父親が医師として活躍を始めた当時を彷彿とさせる。発展途上国の医療は、特に公衆衛生は、今まさに大きな発展を遂げるための大事な時期にさしかかっている。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。