10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣(前半)
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ファクトフルネス(ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著/上杉周作、関美和訳)
今年もまた、おしゃれでこじんまりとしたスイスの街ダボスで、世界経済フォーラムが開催されています。
この本の筆者に転機が訪れたのは、
2015年の1月、この会議に参加したときのことでした。
ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツとともに、持続可能な社会・経済発展についての基調講演を行いました。
用意した質問は、貧困・人口増・ワクチン接種率についての3問。
しかし、世界について語り合うためにやってきていた選りすぐりたちでさえも、
人口増やワクチン接種率についての問題になると、
正解率はチンパンジー以下でした。
いつでも最新のデータにアクセスでき、
アドバイザーから逐次情報を得ている人たちでさえ、
世界についての基本的な問題に答えられないでした。
ダボスでそう確信した筆者は、
ひとつの結論にたどり着きました。
瞬時に何かを判断する本能と、
ドラマチックな物語を求める本能が、
「ドラマチックすぎる世界の見方」と、世界についての誤解を生んでいると。
わたしたちはみな、ドラマチックな10種類の本能を持っています。
本日はその前半、1~5種類の本能についてです。
1. 分断本能
「世界は分断されている」という思い込み
まず、世界を2つに分けることはやめましょう。
もはやそうする意味はありません。
世界を正しく理解するのにも、
ビジネスチャンスを見つけるのにも、
支援すべき最も貧しい人々を見つけるのにも役に立ちません。
1999年頃、
わたくしが初めて世界銀行の職員に向けて講義を行ってから、
世界銀行が「途上国」と「先進国」という言葉を使うのをやめ、
代わりに4つのレベルを使うと公言したのは、その17年後でした。
「途上国」と「先進国」という呼び名はもはや正しくありません
(国連その他の国際機関では、いまだに使われていますが)。
世界の人口70億人を10億人ずつその分布を見てみましょう。
所得に応じて4つのレベルに分かれており、
基準は1日あたりの米ドル換算の所得になります。
図を見れば、大半の人が真ん中2つのレベルに属していることがわかります。
このレベルにいれば、生きるために必要なものはほとんど揃います。
2. ネガティブ本能
「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
人は誰しも、
物事のポジティブな面より、ネガティブな面に注目しやすく、
このネガティブ本能もまた、
世界についての「とんでもない勘違い」が生まれる原因になっています。
人々が「世界はどんどん悪くなっている」という
思い込みからなかなか抜け出せない原因は
ネガティブ本能にあります。
人はポジティブな面よりネガティブな面に気づきやすく、
悪いニュースは広まりやすいのです。
ネガティブ本能を刺激する原因は3つあります。
(1) あやふやな記憶
(2) ジャーナリストや活動家による偏った報道
(3) 状況がまだまだ悪いときに、「以前に比べたら良くなっている」と言いづらい空気
です。
3. 直線本能
「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
わたしたちは、視覚を頼りに、何かの起動を反射的に予測することができます。そして、世界人口の歴史とグラフを見ると、人口はとんでもない速度で、しかもひたすら増え続けているように見えます。わたしたちはどうしても、グラフに描かれていない部分にある「線の続き」を想像してしまいます。しかも直線で。
国連には、経験豊富な人口学の専門家たちがいます。彼らの予測によると、未来の世界人口は、これから数十年間は減速する見込みで、世紀末を迎える頃には横ばいになり、人口は100億人から120億人で安定すると見られています。「人口が増えているのは、大人が増えるから」という理論が常識になっています。すでに現在、子どもの人口は横ばいになっています。そして、長期にわたって人口が横ばいになるということは、「子どもから大人になる人の数」が、常に一定になるということです。
4. 恐怖本能
危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
人はみな恐怖に包まれると、判断力が鈍ります。
冷静に考えることは普段でも難しい。
緊急時になるとほぼ不可能です。
頭が恐怖でいっぱいになると、事実を見る余裕がなくなってしまいます。
メディアはこのことを十分理解しています。
めったに起きないことのほうが、
頻繁に起きることよりもニュースになりやすいからです。
注意しないと、実際にはめったに起きないことが、
世界ではしょっちゅう起きていると錯覚してしまいます。
そして、恐怖本能の力を誰よりも理解しているのは、テロリストです。彼らは人々を恐怖に陥れるべく、わたしたちの恐怖本能につけこもうとします。
5. 過大視本能
「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み
(ここでは、先日アフガニスタンで亡くなられた中村哲先生と同じ考えが記されています。)
わたしのやるべきことは明確です。
病院にたどり着くことなく、亡くなってしまう98.7%の子どもを
見殺しにはできません。
病院で点滴をするよりも、
同じ時間を、病院の外の衛生環境を良くすることに使った方が、
よっぽど多くの命を救えます。
仕える時間や労力は限られています。
だからこそ、頭を使わないといけません。
そして限られた時間や労力で、やれるだけのことをしましょう。
過大視本能は、
周りで起こっていることよりも、
目の前にいる患者を重要視しすぎてしまうような勘違いを生んでしまいます。
メディアは過大視本能につけ込むのが得意です。
「苦しんでいる人たちから目を背けるのは、何となく後ろめたい」と思う気持ちを、
メディアは逆手に取ろうとします。
過大視本能と、ネガティブ本能が合わさると、
人類の進歩を過小評価しがちになります。
過大視本能のせいで、多くの人が限られた時間や労力を無駄遣いしがちです。顔の見える患者やたったひとつの出来事など、「目の前にある確かなもの」に気を取られてしまいます。