Director's blog
院長日記

熊本市医師会看護専門学校講義 2020年7月9日 「血液・造血器」総論

武本 重毅

カテゴリー: 

本日は、血液についての講義です。

血管の中を流れる血液は

栄養や老廃物を運び、また酸素や二酸化炭素を運ぶ、いわば身体のライフラインです。

その成分は、血液細胞と血漿からなり

これらを調べるためには、抗凝固剤を加えて遠心します。

血漿には、凝固因子、免疫グロブリン、アルブミンなどのタンパクが含まれます。

血球は、赤血球、白血球、そして血小板です。

 

血液細胞について

赤血球は、直径7μmくらいで、中央に凹みがあり

その前の段階である網状赤血球になる前に脱核します。

核がなくて、扁平な形をしていますので

容易に変形して、毛細血管などのより細い血管内でも通過することができます。

また、ヘモグロビンという鉄を含むタンパクを有し

酸素や二酸化炭素と結合・運搬して「ガス交換」に一役買っています。

しかし、酸素や二酸化炭素よりも結合力の強い一酸化炭素が入ってくると、

もう酸素を運ぶことができなくなります。

これが一酸化炭素中毒です。

一酸化炭素は不完全燃焼やタバコの煙で発生します。

赤血球は約120日間はたらき、脾臓で壊されます。

 

白血球は、感染防御や免疫で活躍します。

いくつかの種類があり

まず、顆粒をもった顆粒球として、好中球、好酸球、好塩基球は

それぞれ食作用(貪食)と特殊顆粒の殺菌作用で

好中球は細菌を攻撃し

好酸球は寄生虫を攻撃する他にアレルギーに関与し

好塩基球もまたアレルギーに関与しています。

次に、単球は、最も大きな血液細胞で

血中に1~3日滞在した後

血管外の組織へ移行し、マクロファージへと形を変え

細菌、真菌、原虫などを貪食し、異物を処理します。

単球内にはリゾチームという酵素が存在し

真正細菌の細胞壁を構成する多糖類を分解します(溶菌)。

このリゾチームは、涙、鼻汁、汗、母乳などにも含まれています。

最後に、リンパ球ですが

B細胞、T細胞、NK細胞があり

B細胞は血液、リンパ節、脾臓に存在します。

細胞表面にCD20を発現しています。

B細胞受容体からの刺激を受けると

遺伝子再構成を経て、抗体を産生するようになります(形質細胞)。

形質細胞は主に、骨髄に存在します。

この抗体を介する免疫反応を液性免疫といいます。

T細胞は、細胞表面にCD2、CD3を発現しており

胸腺内で選択され

CD4を発現しているヘルパーT細胞と

CD8を発現している細胞障害性T細胞に分れます。

ヘルパーT細胞は、B細胞の抗体産生や、細胞障害性T細胞のはたらきを助けます。

細胞障害性T細胞を中心とする免疫反応を細胞性免疫といいます。

液性免疫と細胞性免疫は、ある特異な抗原との反応であり

十分に攻撃相手を吟味してから起こす戦いですので

獲得免疫といいます。

これに対し

NK細胞が起こす戦いは、自然免疫といいます。

好中球など顆粒球も自然免疫に関与しています。

 

血小板は、最も小さな血液細胞です。

やはり核がありません。

というのも

骨髄内に存在する巨核球の細胞質がちぎれてできたものだからです。

血小板は出血を予防し、止血にはたらきます。

血小板は出血部位に集まり

まずフォン・ヴィルブランド因子を介して粘着・フィブリノゲンを介して凝集します(一次止血)。

さらに凝固因子が活性化し

フィブリノゲンがフィブリンモノマー→フィブリンポリマー(安定化フィブリン)と変化して

より固い血栓をつくります(二次止血)。

血小板の寿命は7日くらいで、特に輸血製剤になってからは3日以内と短命です。

 

凝固因子とは

凝固因子は、血漿タンパクの一種で、15因子が知られています。

血液中のXIIが組織に接触すると活性化され

それがXIを活性化し、それがIXを活性化するというように

滝の流れのように反応が続きます(カスケード)。

ここまでの反応を内因系と呼びます。

一方、血管外の組織因子(III)が血中に入ると

VIIを活性化します。

これを外因系といいます。

活性化IX(IXa)は活性化VIII(VIIIa)と共に(内因系)

そして活性化VII(VIIa)も

Xを活性化し

Vの活性化も加わって

プロトロンビン(II)をトロンビン(IIa)へと変化させ

そのトロンビン(IIa)がフィブリノゲン(I)をフィブリン(Ia)へと転換します。

ビタミンK依存性凝固因子も覚えておいて欲しいと思います。

これは、II、VII、IX、Xのことで

血栓症予防のワルファリンがはたらきを阻害する因子です。

しかしビタミンKが栄養として取り込まれると

このビタミンK依存性凝固因子の合成が亢進するので

ワルファリンが効かなくなります。

だから、ワルファリン治療中は、ビタミンKを含む納豆などの食品を食べてはいけません。

 

造血のしくみ

血液をつくり出すことを造血といいます。

造血には、造血幹細胞、造血微小環境、造血因子が必要です。

先ほど紹介した、数々の血液細胞は、全て

もとは一つの造血幹細胞に由来しています。

この細胞は細胞表面にCD34を発現していると考えられています。

その幹細胞のままで複製し(自己複製能)

さまざまな血液細胞へと成熟することができます(多分化能)。

京都大学の山中伸弥教授は

血液細胞に限らず、一旦分化してしまった細胞を用いて

このような幹細胞を作成する技術、iPS細胞の仕事で

ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

微小環境内では、造血因子が産生され、細胞の分化や成熟がおこります。

造血因子は

微小環境など、ある組織内の環境内で細胞から産生され

自身やほかの細胞を活性化します。

このような物質をサイトカインと総称します。

最近では

新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が重症化する原因として

「サイトカイン・ストーム」というのをニュースで耳にすることが多くなりました。

そのサイトカインです。

造血因子としては

赤血球産生にはたらくエリスロポエチン

この物質は熊本大学第二内科の先輩、宮家隆次先生が、その存在を明らかにしました。

そして

顆粒球系白血球産生にはたらくG-CSF

血小板産生にはたらくトロンボポエチンなどを覚えておくとよいでしょう。

 

血液細胞減少などによる症状

赤血球が減少すると

酸素欠乏になり

頭痛・めまい・失神発作・易疲労感・狭心痛などがおこり

それを代償しようと動悸・息切れがあらわれます。

診察では、眼瞼結膜などの色をみます。

貧血の進行が急性か慢性かで、症状が異なります。

ゆっくり進むと、ひどい貧血なのに、普通に日常生活を送っている患者がいます。

白血球が減少すると

免疫力が低下しますので、感染しやすくなります。

感染症により発熱します。

発熱の原因として、感染症、悪性腫瘍、膠原病の鑑別が重要です。

血小板が減少すると

出血がおこりやすくなり

あざができたり、鼻出血したり、点状出血がみられたりします。

出血傾向には、二つのタイプがあり

血小板減少など血小板の異常と

血友病など凝固因子の異常では

その症状に違いがあります。

血小板の場合は、皮膚表面や鼻出血など眼に見える形で血管から出血しますが

凝固因子の場合は、身体の深いところ、関節内や筋肉内などで出血します。

リンパ節というのは

リンパの流れの関所みたいなものです。

ケガなどで外部から入ってきた病原菌をそこでくい止めて

免疫細胞が戦います。

このためリンパ節が腫脹します。

感染症の場合は、柔らかくて痛みを伴う腫脹ですが

一方

リンパ腫など悪性腫瘍の場合は固くて圧痛はありません。

Author:

武本 重毅

聚楽内科クリニックの院長、医学博士。